るーみく | ナノ



「おれと結婚してください」

そう言葉を紡ぐのにはだいぶ時間がかかった。まだまだ青臭かったあの頃は彼女の一挙手一投足に一喜一憂していた。彼女はいつもポーカーフェイスで、何を考えているのか自分には全くわからなかった。貧乏で自分に自信がなかったのもひとつの要因だと思う。
今は借金も全て返済することができ、おれを縛る物はなくなったように思う。ただひとつ心残りなのはおれの中に流れる少しの死神の血だ。しかし、そんなことを気にしている余裕などないほど彼女のことが好きになった。彼女が幸せならいいと思っていたあの頃とは違い、彼女はおれが幸せにしたいと思ったのだ。おれだけの彼女になって欲しかったし、彼女だけの自分だと呼んでもらいたかった。だから今プロポーズをした。「プロポーズをする時は夜景のキレイな公園や高層ビルでサプライズ的に」だなんて言うけれど、ムードも何もなく、ただただ気持ちをぶつけてみた。目の前にいる彼女は花が咲いたように微笑んでくれたから、おれも釣られて笑った。

貧乏だったおれを気遣ってか式はしなくてもいいよ、と彼女は言った。しかしおれは式を挙げようと言った。花嫁姿の彼女が見たかった。式当日、大太鼓の響きと共に、巫女に導かれて本殿へと向かう。清らかな白無垢と綿帽子姿の彼女は想像以上に綺麗で思わず見惚れた。真宮桜と彼女のことを呼ぶと、もう“真宮”桜じゃないよ。と笑いながら彼女は言った。桜、と呼ぶと彼女はプロポーズした時のように微笑んでくれた。その笑顔がとてもかわいくて、はじめて彼女のことをかわいいと思った遊園地での笑顔を思い出した。思えばあの頃からずっと好きだったのかも、なんてぼんやりと考えた。

「お父さん、何ぼーっとしてるの?」

彼女によく似た子が目の前でひらひらと手を振っていた。あの頃の彼女と同じようにお下げを胸元に垂らして、自分と同じ赤い瞳でまっすぐこちらを見ていた。

「少し、昔を思い出していたんだ」

今ではもう懐かしい青春の日々。それが思い出となった今も、青春を共にした彼女と過ごしていけることに幸せを覚えた。


130325



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