子どもの頃、雨の日は嫌いだった。外で遊ぶことができないし、髪の毛は上手にまとまらない。なんだか空気も淀んでいるような気がして、あの太陽を隠している雲が早くどこかにいってしまえばいいのになんて思っていた。
今日も雨が振っていた。今の私は子どもの頃のように外で遊びたいだなんて言わないけれど、やはり雨は私を憂鬱にさせた。窓の外でザアザアと降る雨はなぜか涙を連想させて、胸が締め付けられるように痛んだ。
「……七夕は、いつも雨が降っているのね」
ぼそりと呟いた言葉をエーコは聞いていたらしく、七夕の雨は久しぶりに彦星さまに会えた織姫さまが流す嬉し涙なのだわ!と熱く語ってくれた。
「ねえ、ダガー?ダガーは七夕に何をお願いするの?」
「あら、エーコ。本当に大切なお願いごとは人に言ったら叶わなくなるのよ」
そう言うとエーコは拗ねたように口を尖らせる。そんなエーコは可愛い。私もエーコのように素直に感情を表現できたら良いと思う。
エーコが帰った後、部屋でひとり雨音を聞いていた。ザアザアと降る雨がもし織姫さまの嬉し涙なら、織姫さまが羨ましく感じた。
いつまでも過去を引きずっていたらいけないことは知っている。 前に進まなければいけないこともわかっている。でもどうしても割り切ることが出来ない。ダガーは雨音に合わせて歌を歌った。ジタンとダガーのあの歌を。
「……ダガー?起きた?」
「……ジタン?」
よく寝てたな、なんて笑うジタンを目の前にして、私は夢を見ていたということを理解した。今日は七夕、外は雨。何故かデジャブを感じた。
「……七夕は、いつも雨が降っているのね」
気づけば口に出していた。
「さっき、夢を見たの。ジタンがいなかった七夕も雨が降っていたわ」
ジタンはダガーの目をジッと見ていた。綺麗な青い瞳で。ジタンの目は綺麗な青空のようで雨は似合わないと思った。
「ダガー、知ってるか?七夕に降る雨は、やっと会えた彦星さまと織姫さまが周囲に見られないように隠れてしまうからなんだぜ」
「え?」
「だからさ、オレ達もやっと会えただろ?空がオレ達を二人きりにしてくれてるのさ」
ジタンはそういってニヤリと笑った。彼のそういう掴めないところは昔から変わっていない。その笑顔を見て、何故か安心もした。
「よし、じゃあせっかくだからあついチューのひとつでもどうだい?」
そんなことを言っておちゃらける彼を驚かせたくて、そっと彼の頬に唇を寄せてみると彼の青い目はまん丸に見開かれていた。その顔を見て私は満足した。
「そういえば、ダガーは七夕に何をお願いしたんだ?」
「あら、本当に大切なお願いごとは人に言ったら叶わなくなるのよ?」
「それは違うぜ、ダガー。本当に大切な願いは大切な人にだけ見せるのさ」
「じゃあジタンは何を祈ったの?」
「ダガーと一緒にいれますようにってさ」
「じゃあわたしも同じことを祈ろうかしら」
外は雨が降っていた。けれどダガーはもう雨が嫌いではなかった。むしろ雨が好きになった。雨が降ったら彼と二人きりでいれるから。
120707
FF9 12th Anniversary