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「……あなた様を誘拐するお約束は残念ながらここまでです。……わたくしめの勝手をどうかお許し下さいませ」


彼にそう言われたあの日から
アレクサンドリアに帰ったあの日から
わたしの中にはぽっかり穴が空いたみたいでした。
今日はわたしの誕生日。いつかの誕生日に彼と出会って旅をしたことが、とても昔に感じられる
なつかしいわ…

あの時決意して彼のダガーで切った髪も、今ではすっかり元通りに伸びてしまった…
そしてわたしはアレクサンドリアの女王…
今日はまたみんなと会える。でも、もう皆と旅をしたあの日々は、二度と帰ってこないのね…

そんなことくらい、自分の頭では理解している。だからもう泣いてばかりはいられない、涙は勇気にかえて……

そんなことを考えている間に大きな拍手。そろそろお芝居の始まる時間だ。わたしの大好きな「君の小鳥になりたい」が


「手にはどうぞ厚手のハンカチをご用意くださいませ」


その言葉でお芝居は始まった。やはりタンタラスの演技はみんなとても上手で。でも以前見た時のようなドキドキやワクワクがないのに気づいた
やっぱりわたしはいつまでたっても前に進めないのかしら…

「そろそろ船出の時間だ」

いつの間にかお芝居もクライマックスが近づいてきたらしい。マーカスの独白のシーンだ

「信じるんだ!信じれば、願いは必ずかなう!太陽が祝福してくれぬのなら、ふたつの月に語りかけよう!」

マーカスが両手を振り上げる

「おお、月の光よ、どうか私の願いを届けてくれ!」


会わせてくれ、愛しのダガーに!!


マーカスはマントを脱いでそう叫ぶ。舞台にいたのは夢にまで見た、彼

一瞬自分の目がおかしくなったのかと思った。しかし何度瞬きをしても、彼は自分の目の前にいる

行かなきゃ!

そう思った瞬間、わたしは走りだしていた。あの扉の向こうには彼がいる。そう考えると走らずにはいられなかった。人混みの中を必死に走った。あまりにも夢中で走ったから、途中で天竜の爪を落としてしまった。

どうしよう

取りに戻るか、そのまま行くか。いや、もう答えは決まっている。

彼に、ジタンに少しでも早く会いたい。

わたしはティアラも投げ捨てて、ジタンの胸に飛び込んだ
身分なんて関係ない。わたしは、ひとりの人間として、ジタンが好き。

わたしを抱きしめたジタンはいたずらっぽく笑う。心配したんだから!と胸を叩けばジタンはそっと頭を撫でてくれた


「誕生日おめでとう」
(ねぇ、どうして助かったの…?)
(助かったんじゃないさ、生きようとしたんだ)
(いつか帰るところに帰るために)



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HAPPY BIRTHDAY TO Garnet!
2011.1.15



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