ジタンの右耳についているピアスは、アレクサンドリアの女王様がプレゼントしてくれたものだ。青く光るそれはとてもセンスがよく、ジタンの目の色と同じだった。ジタンはそれが気に入っていた。
耳たぶに感じる小さな小さな重みは、ジタンにとってはとても大きなものだった。
そんな女王と一緒に旅をしてから、長い長い時が経った。
まだまだかわいい王女だった彼女は、何時の間にか成長して老女とまではいかなくとも年をとった。
それに反して自分はある年齢をこえてから成長がピタリと止まった。小さな小さな召喚士だったエーコと肩を並べても違和感はなかった。
自分はジェノムだから、時は止まったままだった。自分だけ、置いていかれているような、そんな思いがジタンには少なからず存在した。ただ、ジタンは女王の前で弱音を吐くことはしたくなかった。
ジタンは無意識に耳たぶにあるピアスを指でいじっていた。これから会議なのだろうか、目の前の女王は珍しくスーツなんか着てフォーマルな格好をしている。
「ねえ、ジタン」
不意に声をかけられた。
「なんだい、ダガー?」
「明日ってくると思う?」
「どうしたんだ、突然」
「明日なんてものは、本当はないんじゃないかって、最近思うの。ほら、気がついたらもう今日になっているでしょう?」
ダガーはそういってにっこりと微笑んだ。昔はそうやって微笑まれると体がほんわかと熱くなったのを必死にポーカーフェイスで隠したのを覚えている。しかし時がたった今はその微笑みに恋なんて簡単な感情じゃなくて、もっと深い何かを感じている気がする。
「ねえジタン。あまり上手くは言えないのだけれど、その、今があるからそれでいいのではないかと、わたしは思うの。明日とか、未来なんて関係ないわ。今、わたしとあなたが一緒にいる事が大切なの」
ダガーの澄んだ瞳が自分を見つめる。その綺麗な目に射抜かれると、なんだか全部がどうでもよくなる感じがした。
「ダガー」
ジタンが口を開いたとき、ダガーは真っ直ぐにジタンの方を向いていた。
「……ありがとう」
王女はまた綺麗に笑った。
「今から会議だろ?がんばって」
「ええ。終わったら久しぶりにお茶でもどうかしら?エーコが美味しい茶葉をくれたの」
「そりゃいいな!用意して待ってるよ。そうだな…お茶請けは桃色プディングにしようか」
「あら、とても楽しみだわ。」
ダガーはからからと笑ったと思うと、急に真剣な顔つきになって「大好きよ」なんて呟くように声にだした。ジタンは少し驚いたけれど、そんな女王が愛しくなった。そっと女王の額に唇を落として愛を囁いた。
「オレも好き」
120115/Happy birthday princess