※ジタンが怪盗です
今宵夜空が月のペンダントで着飾る頃、国宝のペンダントを頂戴いたします 怪盗ジタン
アレクサンドリア城にそんな手紙が来たのは、ある朝のことだった。もちろん城は大騒ぎ。
怪盗ジタンは神出鬼没の盗賊で、狙った獲物は必ず盗む。華麗な手口で気障。民衆には何故か人気である。シルクハットにモノクル、マントを身に纏っている。変装が得意でいろいろなものになる。ジタンについては皆それくらいしかしらない。いや、わからないのだ。なんせ彼は神出鬼没なのだから。
国宝のペンダントは城の女王、ガーネットが所持していた。ものすごい量の数のアレクサンドリア兵を用意して、ペンダントを監視することにした。
一方怪盗ジタン、いやジタン・トライバルはペンダントを盗むための準備をしていた。アレクサンドリア兵の部屋に忍び込み、そこにいた兵にスリプル草を飲ませ、その兵に変装をした。兵士のメットは臭かった。
(このメット……臭うな)
変装する相手を間違えた、とひどく後悔するジタンなのだった。
そして予告時刻直前。ペンダントの周りには多くの兵がいた。もちろんそこにはジタンもいた。
反応時刻になった瞬間、突然煙がでてきたかと思うと、置いてあったはずのペンダントは消えていて、代わりに「ペンダントはいただいた。怪盗ジタン」と書かれたカード。そして窓が開いていた。
「怪盗ジタンはきっと窓から逃げたのである!追えーっ!」
スタイナー隊長がそう叫ぶと、兵士は一斉に窓から出ていった。しかし出て行かない兵士がひとり。ジタンである。
実はペンダントはまだそこにあったのだ。目の前にあったものが急に目の前から消えたように見せて盗まれたように錯覚してしまう。窓が開いていたらそこから逃げたように感じてしまうという簡単なものだった。
(そうだ、誰もいないうちにダガーに会いに行こう)
ジタンとガーネットは一応恋人、という位置付けなのだろうが、あまり公にはされていない。何しろ相手は一国の女王だ。一般人の自分とは釣り合わないにもほどがある。
(それに恋人が世間を騒がせる怪盗だなんてな……)
ダガーはジタンが怪盗であることをしらない。そんなダガーに怪盗の姿で会いに行くのだ。ジタンはそっとダガーの部屋の窓を開けた。
ガーネットはふと目を覚ました。閉めたはずの窓が開いていた。窓からひゅうと風が入り込む。
(どうりで少し冷える訳ね……)
今日は怪盗ジタンの予告日だ。スタイナーに危険だからと部屋に押し込められなにもできなかった。わたしはこの国の女王なのに。
(ペンダントはどうなったのかしら……)
そんなことを考えながら窓を閉める。ベッドに戻ろうと振り返ると、目の前にはマントを身に纏った怪盗ジタン。
声をあげようとしたが手で口を塞がれてしまう。なんだか懐かしい香りがした気がした。
「声を上げるのはやめて下さい、女王殿下。私は危害をくわえに来たのではありませんから」
目の前の怪盗はそう言った。そして口を押さえていた手を離してくれた。シルクハットにモノクルをしているから、顔はよくわからない。しかしシルクハットから少しはみ出た髪は自分の良く見知った金髪だった。
(まさか)
「このペンダントはお返しします、殿下。私の求めていたものではないようなので」
「……ジタン?」
そう言いジタンはペンダントをガーネットの首にかけた。
「このペンダントはあなたの首にかかってこそ美しいですね、とてもよく似合っていますよ」
ジタンはひざまずき、ガーネットの手の甲に唇を落とす。
「それではドロボウめはこれで失礼いたします、殿下」
そう言い残すとぽん、と音をたてて消えてしまった。部屋に残ったのは薔薇の花と微かに香るジタンの懐かしい香だけ。
素敵なあなたにお似合いの
(……ジタン?……いや、そんな訳ないわよね)
(やっべー、バレたかな……)
―――――
お題元:Largo
やってしまった怪盗ジタン!
文章量が普段の3倍近くあります(笑)