トウコちゃん
ある森に、トウコちゃんと言う女の子がいました。トウコちゃんはお使いを頼まれて、森の向こうのベルちゃんの家へ向かうことになりました。そんなトウコちゃんをじっと見ていたトウヤくん。トウヤくんはトウコちゃんのことが好きでしたが、なかなか思いを伝えられずにいました。そうだ、ベルちゃんに協力してもらおう、とトウヤくんは思いました。そのためにはトウコちゃんより先にベルちゃんの家までつく必要がありました。トウヤくんは意を決してトウコちゃんに話しかけました。
「や、やあ、トウコちゃん」
「あ、トウヤくん!どうしたの?」
「い、いやあ、トウコちゃんがどこに行くのかなあと思って」
「今からベルちゃんのところまで行くの。ベルちゃん病気らしいから、お見舞いなんだ」
「そうなんだ。この近くに綺麗な花畑があるらしいから、そこでお花を摘んでいったらどうかな?」
あくまで紳士に、怪しまれないように。トウヤくんの頭にはそれしかありませんでした。花畑のことを伝えた時に見せてくれたトウコちゃんの笑顔に鼻血がでそうになりましたが、なんとかそれも我慢して見送ることに成功しました。無事計画通りトウコちゃんを道草させることに成功したトウヤくんは一足先にベルちゃんのところへ向かいました。
「だから、迫ったらいいんだよお」
「それができたら苦労しないよ」
ベルちゃんの家ではトウヤくんとベルちゃんが言い争っています。ベルちゃんは言いました。
「じゃあわたしに化けて、ベッドに入ってたら?それでトウコに迫っちゃいなよお」
「え、ちょっと待って、それって女装……」
「まあまあ、男は度胸だよお」
結局ベルちゃんに変装することになったトウヤくん。ベッドの中でトウコちゃんを待っています。
トントン
来た!トウヤくんの体が強張りました。
「ベルちゃん?トウコだよ。お見舞いにきたよ!」
「入っていいよお」
ベルちゃんに成り代わるのも大変だ、とトウヤくんはため息をつきました。あまり顔を見られるのもまずいので、布団を深くかぶります。
「あれ、ベルちゃん、髪茶色くしたの?」
「う、うん。気分転換に」
近い。トウコちゃんが近い。トウコちゃんの顔はトウヤくんの目と鼻のすぐ先です。
「あれ、ベルちゃん顔赤いよ?やっぱり病気ひどいの?」
「あ、ああうんそうなの!おほほほほ」
違うよトウコちゃんが近いからだよ!とトウヤくんは心の中で叫びますがそんなことが伝わるはずもありません。トウヤくんはぎゅっと目をつむりました。
「あれ、ベルちゃんそんなに手、おっきかったっけ?」
トウコちゃんはそっとトウヤくんの手に触れました。大きくて骨張ったトウヤくんの手、男の子の、手。突然触られたトウヤくんは我慢ができなかったらしく、トウコちゃんの手首を握り返します。
「あれ、え、トウヤ、くん?」
「………ない」
「え?」
「もう我慢できないっ!」
そう叫ぶとトウヤくんはぐいっとトウコちゃんの手首を引っ張ります。トウコちゃんはそのままトウヤくんの胸の中にダイブ。2人の距離は一気に近くなりました。
ドキドキ、ドキドキ。
トウヤくんの心臓はうるさく鳴り響いています。唇が触れ合うまであと数センチ。
すると突然バタン!とドアが開きました。呆然とするトウヤくんに、我に帰ったトウコちゃんは、顔を真っ赤にしながらトウヤくんの腕の中から脱出しました。
ドアを開けた犯人はチェレンくんでした。偶然通り掛かったチェレンくんは、トウヤくんがベルちゃんのベッドに寝てトウコちゃんに迫っているのを見て助けにきたのでした。
「トウコちゃん、狼さんには気をつけなきゃ駄目だよ」
なんてトウコちゃんに説教するチェレンくんをトウヤくんは恨めしそうに見ていました。ベルちゃんは呑気に「あともうちょっとだったのにねえ」なんてトウヤくんの方を見るものだから、トウヤくんはなんだかいたたまれなくなって、叫びながら家を出ていきました。
「トウコちゃんもそろそろトウヤくんを甘やかしてあげたらいいのに」
「だって、恥ずかしいんだもん……」
「まあ狼さんもへたれだからね」
3人がそんな会話をしていたことをトウヤくんは知りません。4人は今日も仲良しです。
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