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僕はよくギアステーションに行く。ギアステーションに行くとたいていあの子がいるから、一緒にマルチトレインに乗らないかと声をかける。あの子はいつも快諾してくれるから、一緒にマルチトレインに乗ってバトルを楽しむ。
そんな生活をしているうちに、僕はあの子のことが好きになってしまった。あの子が僕のことをどう思っているのかはわからないけれど、嫌われていないことは確かだと思う。だって、嫌われていたらきっと一緒にマルチトレインなんかには乗ってくれない。
僕はマルチトレインに乗る回数が増える度に、あの子への想いが増えた。あの子との距離も縮まっているような、そんな気さえした。
マルチトレインに何回乗ったのか、わからなくなってきたある日、あの子は僕にこう言った。

「わたし、忘れられない人がいるんだ」

その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中は真っ白になった気がした。


忘れられない人、というのはあの子のトモダチらしく、ある日サヨナラと言ってどこかへ行ったきり、行方不明らしい。あの子はそのトモダチを探しに行こうと思っている、と僕に打ち明けてくれた。僕は複雑な気分になった。
あの子がそんなことを僕に打ち明けてくれるということは、僕は少なからず信用されていると言ってもいいだろう。しかし、あの子の1番は僕ではなく、忘れられないトモダチだ。僕はあの子の1番になりたかった。でも臆病者だった僕はあの子にとって優しい友達をとった。

「そうなんだ、トモダチ見つかるといいね」

僕がそう言うと、あの子は少し目を伏せてありがとう、と感謝の言葉を口にした。これでよかったのだ、と僕は思った。僕は一歩踏み出して、あの子と一緒にマルチトレインが乗れなくなるのが怖かったし、僕の中ではあの子が幸せになるのを邪魔することはいけないことだった。あの子に幸せになってほしかった。幸せにするのが僕ならもっとよかった。
それからしばらくして、あの子はトモダチを探して旅立ってしまった。結果、僕はあの子とマルチトレインに乗れなくなってしまった。でもギアステーションに行く癖はとれなくて、マルチトレイン乗り場を少し期待しながら覗いては、落ち込みながらシングルトレインに乗る日々が2年ほど続いた。

ある日、いつものようにマルチトレイン乗り場へ行くと、あの子にとても似ている女の子を見かけた。一瞬あの子が帰って来たのかと思った。その女の子は他の男の子と一緒にマルチトレインに乗るところだった。僕は何故かその二人に僕とあの子を重ねて見ていた。僕があの時あの子を引き止めていれば、あの子はまだ僕と一緒にマルチトレインに乗ってくれていたのだろうか。今となってはその答えはわからないけれど、僕は今、あの子を引き止めなかったことをひどく後悔していた。今日もシングルトレインに乗ろうと足を進めた時、あの子に似た声が聞こえた。

「トウヤくん!」

僕は幻聴が聞こえたのかと思った。
声の方に振り返るとずっとずっと会いたかったあの子が立っていた。

「トウコ、ちゃん?」

会えて嬉しいはずなのに、情けないことに僕の体は全く動かなかった。トウコちゃんは僕に笑顔で話しかけてくれていたけど、あまりにも僕の反応が悪いからか、だんだん歯切れが悪くなった。

「あはは、久しぶりだったから嬉しくて、なんか1人で盛り上がっちゃってごめんね。そろそろ行くね」

トウコちゃんがそう行った時、僕はこのままトウコちゃんを行かせてはいけないと思った。2年前にトウコちゃんを行かせてしまったように、僕はまた後悔する気がした。

「トウコちゃん!」

トウコちゃんはゆっくりと振り返った。

「僕と一緒にマルチトレインに乗りませんか」

そう言うとトウコちゃんは笑顔になった。僕の大好きな笑顔だった。

「うん。絶対サブウェイマスターのところまで行くよ!」

トウコちゃんはどうして帰って来たのかとか、トモダチとはどうなったのかとか、気にならないと言ったら嘘になるけれど、僕はトウコちゃんとマルチトレインに乗っている今が幸せだから、今を大切にしようと思った。


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企画サイト、零時の鐘が鳴ったときさまに投稿させていただきました。ありがとうございました!



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