<俺の>
「もうまたそればっかり見てる!」
私は毎日のように彼が見ている、手配書リストにイライラしていた。
モンキー・D・ルフィ。
麦わら帽子を被り陽気に笑っている。最近、世間を騒がせている男。これで懸賞金は4億というのだからびっくりだ。
確かに彼の偉業は凄いとは思う。だからと言って彼を追いかけて、海へ出る必要はあったのだろうか?
「うるさいべ!これは俺の宝もんだ。」
「ただの手配書でしょ?」
「おめェには、この方の素晴らしさを
分かってねェんだべっ!!」
(あー、また始まった。こうなると止まらないんだよね...。)
「ローグタウンで、あの時奇跡を見た!おめェも見ただろっ!?神はこの方を生かした!!」
(ただ雷が落ちただけじゃないの。
ゴムだから効かなかっただけ...。)
「俺はこの方に憧れて海さ出た。この方こそ海賊王に相応しい!!毎日拝むのは当たり前だべ!!」
バルトロメオ。通称ロメオ。
彼はモンキー・D・ルフィのことになると今のように声を荒あげる。
私とロメオは一応恋人同士。
....一応。
「はぁー、めちゃくちゃかっこいいべ...。」
あの街でボスとして張っていた彼に、私はある日声をかけられた。
「おい、そこの女ァ。」
いい噂は聞かない男だ。
最初は関わりたくなかったのだが、彼はしつこく私を追い回した。
結局そんな彼に私は落ちた訳だ。
ロメオは毎日のように私に迫り、愛を確かめ合う行為を求めてきた。私はそれに応えていたわけだが、モンキー・D・ルフィが現れてから全てが一変した。
「ねー、ヤろ?」
「うるさいべ!今俺ァ、ルフィ先輩の記事をチェックするのに忙しいんだっぺ。」
どんなに私が求めても、返ってくる言葉はいつも同じ。ルフィという男のほうが私より大切なのだ。
「ねェ!!もういい加減にしてよ!」
「な、なんだべっ!!」
「この方とか憧れとか、もう聞き飽きたっ!ルフィと言う男が何っ!?結局ロメオは私よりルフィなんでしょ!」
初めて彼の前で、怒りを露わにした。
こうすればそんなことねェと否定してくれる、心の中でそう思ってた。でも、彼から返ってきた言葉は...。
「今なんて言った!?ルフィ先輩のことを呼び捨てにしたなっ!?いくらおめェでも許さねェべ!!!」
私の気持ちを粉々に砕いた。
「ほんとバカな男!!もう知らない!」
部屋を勢いよく飛び出す。
今は海の上だ。逃げる場所も無いのに、私は走った。
男は馬鹿みたいに憧れや夢を大事にする。
「ルフィ先輩は俺の憧れだ!俺はあの方を海賊王にさせてェ!」
モンキー・D・ルフィの話になると、目をキラキラと輝かし、先ほどのように顔の筋肉全部をこれでもかというほど弛緩させて笑う。
その時の彼は、とても可愛い。
自分自身もその姿が好きで、夢を追いかける彼がかっこいいと思う。でも、どうしてなんだろう?
私が彼の一番になりたくて仕方がない。
お前が一番だ。
愛してる。
その言葉を彼から聞きたい。私が存在する意味はどこにあるの?
「おい...っ!」
後ろから私を呼び止めるロメオの声がした。
小さい船だ。部屋から飛び出しても、火すぐに見つかることは明らかだった。
「..........悪かったべ。」
いつもは偉そうな彼が素直に謝る。
怒って突っかかってくると思っていたから、予想外の言葉に困惑した。
「なによ、急に。」
「なんで怒ってるんだべ?」
「ロメオってば最近全然構ってくれないし、ルフィ先輩ルフィ先輩ばっかりなんだもん!私より彼が好きなんでしょう!?」
怒りに任せて、全てさらけ出した。するとロメオは驚いたような顔をして、目を見開いていた。
「そ、それはち、ちかっ!!!」
「......ちか?」
「ち、ちきゃ......。」
(クソ!大事な時なのに、上がっちまって...か、噛む。)
「ふざけてるの?私は本気よ。もう次の島で、私を降ろして!」
ロメオは変な言葉を言うばかりで、自分の気持ちを伝えてくれない。
私のことはただの遊びだったんだと、思わずにはいられなかった。
一緒にいるのが辛い。
ならばいっそ次の島で降ろしてもらったほうが、辛くないだろう。
(違うんだべ!噛んで...くーっ!こうなったら言うしかないっ!)
「誰よりも愛してる...っ!!!」
時が一瞬止まったような気がした。
今なんて...、と私はその言葉に耳を疑った。
目の前のロメオは顔を真っ赤にしていて、とても恥ずかしそうにしている。私の裸を見ても頬を赤らめなかった彼が、だ。
「一緒にいて欲しい。」
「ロメオ?」
「本当はルフィ先輩みたいな男になってから
言うつもりだった。だけど失うくらいなら先に言う...。おめェさえ良ければ、お...おれの...っ!」
「嫁さんになって欲しいべ!!!」
「えっ、ちょっと...待って。急に言われても、そんな...っ!」
「どうなんだべ!」
「や、だからちょっと...待って!」
「待てねェ。」
顔を赤らめながら困惑する私をロメオは、ひょいと抱き抱えた。そしてそのままベッドへ直行。
あんな風に言われてしまったら、もう離れることなどできなくなる。お互いの愛を確かめ合ったあと、私は小さく「はい。」とだけ答えた。
そして私たちは、目を瞑る。
しばらくしたあと、私が寝たと思ったのか両手の拳を上にかざし、部屋中をガッツポーズしながら、飛び跳ねていた彼を見たのは私だけの秘密だ。