<個人的ルール>

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(危なかった...。)

思わずあいつに、名前に触れてしまうところだった。ちょうどいいところにたしぎが来たから良かったものの、あれがなきゃ俺は...。
助かったのは助かったが、最後に余計なこと言いやがって。この女は。

「スモーカーさん?」

「あ?」

「いつも以上に眉間にシワがよってますよ。もしかして、私、余計なこと言ってしまいましたか?」

つくづく変なとこで勘が冴える奴だ。
仕事でその勘が冴えりゃ、俺ももっと楽にできるんだがな。それに比べて名前は、いつも俺が望んでいる以上の仕事をやりやがる。

「今、名前さんのこと考えてるんでしょう。私、分かるんです。」

「どういうことだ?」

「スモーカーさんは気付いてないかもしれないけど、名前さんのことになるといつも以上に眉間に深いシワがよってるんです。スモーカーさんは好きなんじゃないですか?名前さんのこと。」

「根拠の無いつまらねェことを言うな。」

「根拠ならありますよ、女の勘です!」

「........。」

「今日はバレンタインですよね。ずっと前に名前さんから聞いたんですが、誰かに渡すそうですよ。スモーカーさん、素直になったほうがいいと思います。」

「たしぎ、誰に向かって言ってんだ。いつからお前はそんなに偉くなった。」

「っ、すみません!スモーカーさんには幸せになって貰いたいので、つい...。」

「お前のトロさが無くなれば俺ァ、十分幸せだ。」







「じゃあ、スモーカーさん。私はお先に失礼します。お疲れ様でした。」

そう言って、たしぎが部屋のドアを閉める。窓を覗けば、月が夜空に浮かんでいた。
業務に追われて気付けば、もう夜か。名前の用意してくれた資料には本当に助かった。これがなけりゃ、まだ業務に追われてただろうな。

「...バレンタインか。」

たしぎが余計なことを言うから、業務に集中できなかった。
バレンタインなんざ、興味は無かったが...。名前が誰かに渡す、となれば話は別だ。


「素直になったほうがいいと思います。」


それが出来れば、どんなに楽か。
そうしたいのはやまやまだが、部下には手を出さない。これは業務をこなす上での、個人的ルール。

本当は誰にも渡したくねェ。

初めて名前が俺のところへ配属されたとき、一目見て何かを感じた。今まで歩んできた人生の中で色恋はあったが初めての感覚だった。
好きだと思えば思うほど、上司と部下、この関係を貫き通そうと心掛け、必要以上に接しないようにした。近付いてしまえば、自分の物にしたいという欲が溢れるからだ。

「感情のコントロールが出来ないなんて、我ながら情けねェ野郎だ。」

トントントン――ッ!

小さな溜息を漏らしたその時、ドアをノックする音が聞こえた。

(誰だ、こんな時間に...。)

「大佐、私です。名前です。入ってもいいですか?」

「名前?あァ、構わない。」

予想外の来客だ。
失礼します、の声と一緒に名前が入ってきた。手には何か小さな箱を持っている。今から渡しにいくのだろうか。

「遅くまでお疲れ様です。今日お渡しした資料にミスが無かったか、少し心配になって。」

「問題なかった、寧ろこれのおかげで作業がはかどったくれェだ。」

「そうですか、良かったです。あと、それとは別に大佐に話があるんですが、少し時間を頂いてもいいですか?」





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