<気を楽にしろ>
花なんかじゃなかった。罠に嵌れば、そこからもう逃げ出すことはできない。
まるで蜘蛛のようだ。
自由を求め空へ飛び立った蝶が、見えない罠にひっかかる。
蜘蛛の巣に捕えられた蝶は、もがき苦しみ消えていくだけ。
*
「ねェ、もっと来て?」
さらなる快楽を求め、ローを誘う。
「......あぁ。」
いつもその目で誘ってきたのだろう。だが、憂いを帯びた瞳は俺からすれば、何の意味も無いただの眼球。
女なんてただの道具にしか過ぎない。
恋愛感情?
笑わせるな。そんなもの持っていて何の得になる。
これはただのゲーム。
捕まらねェものを、捕まえるのが愉しいんだよ。手に入らねェ女ほど俺の満足度は増す。
俺に落ちた瞬間、その女にはもう用は無い。
「ハズレだな。もっと骨のある奴かと思ったんだが、つまらねェ女に興味はねェ。」
「ひ...っ。な、何よ!」
「少し優しくされたくらいで、俺を落とせると思ったか?」
ククッと笑う姿に名前の背筋が凍った。このままでは消される、そう思うのだが身体が動かない。
残虐――――
やっとその意味が分かった気がした。
「いや、来ないで...ッ!」
「何を今さら。お前から誘ってきたんだ。」
「あァァァァ!!!!!」
突如、部屋に大きな叫び声が響き渡る。名前の骨折した足首に加わる力。ミシミシと音を立てて、足の形が少しずつ変形していく。
「いい響きだ。」
転倒した際に色の変わった頬に手を当ててなぞったかと思うと、両頬を指で押さえ上げる。
名前の綺麗な顔立ちが苦痛に歪み、あまりの恐怖に身体が震えている。
「本当にJOKERを知っている奴は気安く声には出さねェ。知らないんだろう?」
「........っ」
「全部お前の勘違いだ、馬鹿な女」
「だ、騙したのね!?」
「騙される方が悪い。」
ローは診察台から、勢いよく名前を引きずり下ろす。そして、その長く細い足で踏みつけると、名前の息がか細くなるまで蹴り続けた。
白い白衣に赤い斑点ができていく。
「お願い...も、う...」
初めから模様だったんじゃないか、そう思ってしまうくらいに白衣が赤く鮮やかに染まっている。
鉄の匂いが微かに部屋に漂う。
「部屋を汚しやがって...」
「....うぅ、ゴホッゴホ!!!」
勢いよく、血が口から吐き出した。ほとんどが床に落ち、血の絨毯が広がったがその中の一滴がローの頬を赤く染めた。
名前の首にそっと手が伸びる。
「弱ェ奴は死に方も選べねェ。」
指に書かれたDEATHの文字。それは相手を暗闇へと誘う。捕まってしまえば、もう二度と逃げることはできない。
狙われたくないのなら、領域には入らないことだ。
が、もう遅い。
罠の上で踊らされた蝶は、羽をもがれて散った。
「気を楽にしろ、すぐに終わる。」
Fin.