<気を楽にしろ>

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花なんかじゃなかった。罠に嵌れば、そこからもう逃げ出すことはできない。

まるで蜘蛛のようだ。

自由を求め空へ飛び立った蝶が、見えない罠にひっかかる。
蜘蛛の巣に捕えられた蝶は、もがき苦しみ消えていくだけ。





「ねェ、もっと来て?」

さらなる快楽を求め、ローを誘う。

「......あぁ。」

いつもその目で誘ってきたのだろう。だが、憂いを帯びた瞳は俺からすれば、何の意味も無いただの眼球。
女なんてただの道具にしか過ぎない。

恋愛感情?

笑わせるな。そんなもの持っていて何の得になる。

これはただのゲーム。

捕まらねェものを、捕まえるのが愉しいんだよ。手に入らねェ女ほど俺の満足度は増す。
俺に落ちた瞬間、その女にはもう用は無い。

「ハズレだな。もっと骨のある奴かと思ったんだが、つまらねェ女に興味はねェ。」

「ひ...っ。な、何よ!」

「少し優しくされたくらいで、俺を落とせると思ったか?」

ククッと笑う姿に名前の背筋が凍った。このままでは消される、そう思うのだが身体が動かない。

残虐――――

やっとその意味が分かった気がした。

「いや、来ないで...ッ!」

「何を今さら。お前から誘ってきたんだ。」

「あァァァァ!!!!!」

突如、部屋に大きな叫び声が響き渡る。名前の骨折した足首に加わる力。ミシミシと音を立てて、足の形が少しずつ変形していく。

「いい響きだ。」

転倒した際に色の変わった頬に手を当ててなぞったかと思うと、両頬を指で押さえ上げる。
名前の綺麗な顔立ちが苦痛に歪み、あまりの恐怖に身体が震えている。

「本当にJOKERを知っている奴は気安く声には出さねェ。知らないんだろう?」

「........っ」

「全部お前の勘違いだ、馬鹿な女」

「だ、騙したのね!?」

「騙される方が悪い。」

ローは診察台から、勢いよく名前を引きずり下ろす。そして、その長く細い足で踏みつけると、名前の息がか細くなるまで蹴り続けた。
白い白衣に赤い斑点ができていく。

「お願い...も、う...」

初めから模様だったんじゃないか、そう思ってしまうくらいに白衣が赤く鮮やかに染まっている。
鉄の匂いが微かに部屋に漂う。

「部屋を汚しやがって...」

「....うぅ、ゴホッゴホ!!!」

勢いよく、血が口から吐き出した。ほとんどが床に落ち、血の絨毯が広がったがその中の一滴がローの頬を赤く染めた。
名前の首にそっと手が伸びる。

「弱ェ奴は死に方も選べねェ。」

指に書かれたDEATHの文字。それは相手を暗闇へと誘う。捕まってしまえば、もう二度と逃げることはできない。

狙われたくないのなら、領域には入らないことだ。

が、もう遅い。
罠の上で踊らされた蝶は、羽をもがれて散った。






「気を楽にしろ、すぐに終わる。」







Fin.





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