<私を船に乗せて>
「早めに病院へ行け。
医者に診てもらったほうがいい。」
ローはポケットから札束を取り出すと、何枚ものそれを名前に手渡した。
(これでどうにかしろってこと?)
解決したと思ったのか、立ち去ろうとするローに名前は待ちなさいよ!と声を荒あげた。
「お金だけ置いて、さよなら?冗談じゃないわ。私はここで働いているの!商売道具の顔まで傷つけてくれちゃってその上、歩けないですって!?」
ローから漂う威圧感が苦しかったが、こんなチャンスはもう二度と無い。
なんとかして船に乗せて貰わなければ。
狙った男は絶対に落とす。それは、名前のプライド、そのものだった。
「私に会うのを楽しみにしているお客さんはいっぱいいるの!こんな紙切れじゃ、全然足らないわ。」
あまりの啖呵にローは困り果てた顔をして、小さな溜息を吐き出した後、じっと名前のほうを見た。
「俺にどうしろと...?」
「私を船に乗せて。」
*
あの時のことは、今思い出しても面白い。ローの驚いた顔と、店主の今にも逝きそうな顔。
「ま、無理もないわね。」
あの店は私の力で盛っていたんだから、と名前は自信たっぷりの笑みを漏らす。
きっと潰れるのも時間の問題。だが、島を出た私にはそんなことは関係ない。
「ふふ...」
神の存在など信じたりはしないが、あの時のことばかりは神に感謝した。
変化のないチヤホヤされる毎日には、もう飽き飽きしていた。それが、ひょんなことからいい男に出会い、尚且つ島から出れたのだから。島を出るという願いは叶った。
残る願いはあと一つ。
冷徹な空気をまとう男、トラファルガー・ロー。彼を手に入れるだけだ。
女たちを魅了し、誘ってきたであろう、その身体つき。頭の先から足の先まで舐めまわすようにじっくりと見る。見れば見るほどその淫妖な色気が感じられ、名前を挑発する。
乱れる貴方がみたい
さらっと攻めるのがいいのかしら?
ねっとりと攻めるのもいいわね
焦らせて焦らせて
ねぇ、どんな表情をするの?
貴方を服従させる、きっと愉しいでしょうね。
*
「船に女は乗せねェ主義だ。」
「あら、随分な口ね。JOKERについて知りたくないの?」
ローの顔付きが変わった。
もちろん私はJOKERが何なのか、全く知らない。ただ彼の持っていた紙に書かれているのが見えたから、それを言ってみただけだ。
「私を船に乗せて。足が無事に治ったら教えてあげる。貴方、医者なんでしょう?」
「......ちっ。」
「決まりね。私は名前よ。よろしく、トラファルガー...」
知らないことがバレるときっと船を降ろされてしまうだろう。相手は仮にも残虐な海賊。殺されてしまうかもしれない。
が、落としてしまえばそんなこと関係ない。いつもの様に甘い声で誘う。
「抱いて船まで連れていって。」