<順番>

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「違う。こっちからだ。」

名前の歩みを遮って、ローは反対方向へと進んでいく。行き交う人々は飾りを身につけて、夢の国に溶け込んでいる。名前はそんな姿を羨ましげに横目で見ながら、ぐいっと掴まれた腕に引かれ、小走りで必死にローの後について行った。
歩幅が違うのだ。彼が1歩で歩けるところを名前は2、3歩で歩かねばならなかった。きゅんっとするシチュエーションなのだが、これはある種の罰ゲームに近い。

「ちょっと、速いってば。」

「我慢しろ。」

「そんな急がなくても、大丈夫だって!」

「最初が肝心なんだよ。何事もな。」

しばらく歩くと水しぶきが見えた。
結構な距離を必死についてきたためか、名前の息は荒い。

「はぁはぁ...。これ乗るの?」

「いや。ここで待ってろ。」

そんな名前にローはそう言うとどこかへむかったが、3分もしないうちに戻ってきた。と同時に、先程と同じように名前の腕を掴むと違う方向へと歩き出す。

「行くぞ。」

「えー、またぁ?」

「ごちゃごちゃ言うな。ついて来い。」

思わず、これはデートなのか?と首を傾げたくなった。ローは歩くスピードを緩めようとはしない。長距離マラソンのように名前は走った。そして辿りついた先には大きな絵本。甘いハチミツの匂いが気分を盛り上げる。

「並ぶぞ。」

待ち時間30分。普段1、2時間待たなければならないアトラクションがあまり待たなくていいというのは朝だけの特権だ。二人は絵本の世界へと足を踏み入れていった。





「楽しかった。可愛かったね!」

「お前の顔見てるほうが、面白かった。」

「ちょっと!どういうこと、ロー!!」

「そのまんまの意味だ。」

一つ乗ったからだろうか。ローは歩く歩幅を合わせてくれるようになった。手を繋ぎ、ゆっくりと園内を回る。そんな二人の前に現れたワゴンに、名前が駆け寄った。
頭に着ける飾りを一つずつ手に取っては、鏡で合わせている。

(子供か...。)

あれも可愛い、これも可愛いと目を輝かせながら選ぶ名前を見ているのは面白かった。興味のないローからすれば、どれも同じに見える。それを必死になって選んでいるのだ。悩む名前がとても可愛く思えた。

「どれがいいかなぁ。」

「なんでもいいから、さっさと選べ。」

「もう!またそんなこと言う。あっ...これは?可愛いっ?」

「そのままでも十分可愛い。」

名前は自分の顔が赤くなるのを感じた。それもそのはず、周りにもたくさん人がいるのだ。そんな中恥ずかしげもなく、ローは真顔で可愛いなどと発する。言われたことは嬉しかったのだが、それ以上に恥ずかしかった。

「買ってやるよ。」

俯く名前の頭に、ローの手が伸びる。

「...あ、あのさ。」

「なんだ?」

「......お揃いにしようよ。」

先程までの勢いはどこへ行ったのだろうか。一気に名前が大人しくなった。普段なら断るところだが、急にしおらしい態度を取られれば、ペースを崩されてしまう。

「今日だけだからな。」

「え、嘘...。」

「さっさと貸せ。どれだ。」

ローは名前が指さしたものを取ると、レジへと向かった。戻ってきた彼の頭には名前とお揃いのものが飾られていて。

「ローっ。」

「満足か?」

名前は、言葉にならないありがとうの思いを込めて、人前だということも忘れローを抱きしめる。思いもよらぬ行動にローの心がはずんだ。優しい顔つきで名前を見つめる。

「こういうの嫌いなんじゃないの。」

「お前とだからな。」

ローはジャケットのポケットから2枚の紙を取り出す。その紙に書かれた時間は、ちょうどあと5分だ。

「ほら、時間だ。行くぞ。」






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