<顔馴染み>

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シャンクスの心が大きく飛び跳ねた。
はっきり言って一目惚れに近い女が、自分のことを特別な人だと言っている。そして船に乗りたいとも。

どうするべきなのだろうか。ここで自分がそのシャンクスだと言うべきなのか、正体がバレるまで黙っておくべきなのか。

「何、あなたが顔を赤くしてるのよ?」

「あっ、いや。ところで、赤髪の顔を見たことはあるのか...?」

「いいえ、顔は見たことが無いのよ。それに彼の手配書は、顔はあまりハッキリと写っていないでしょう?新世界にいれば会えると思っているんだけど。」

どうやら彼女は、全く気付いていないらしい。頭の中はどうしたらいいか答えが見つからないまま、ぐるぐるといろんな思考が駆け巡る。

もうパンク寸前状態だ。

「もう今日は飲むのをやめるわ。本当にそろそろ宿を探さないと。ご馳走様。」

そんなシャンクスをよそに、名前は少しばかりのお金をテーブルの上に乗せると、席を立ちあがった。

ふわりと髪が舞う。

やはりここで別れるには惜しい。シャンクスは手を伸ばすと、ぎゅっと名前の手を握った。

「宿なら俺が一軒貸し切っている。そこで寝ればいい。だから、もう少しだけ...少しだけでいい。付き合ってくれ。」

まっすぐ見つめられた瞳。だらしのない陽気な男だとばかり思っていたのに、その瞳に男を感じた。

どうかお願い、そんな目で私を見つめないで。

「......分かったわ。」と、名前は小さく返事をすると、再び席に腰を下ろした。






それから数日間、名前とシャンクスはその島に滞在した。
特に決められた予定も無い旅だ。昼間は気ままにすごし、夜はいつもの店で一緒に飲む。それがお決まりになっていた。そして今日も同じように、二人並んでグラスを口に運ぶ。

他愛の無い話、夢の話。
相変わらず名前はシャンクス本人ということに気付かないままだ。シャンクスも、とある理由から自分の正体を告げることはしなかった。

「あなたはいつ出発するの?」

シャンクスのグラスに酒を注ぎながら、名前が問う。ここには最初のようなきつい名前はいなかった。
よく笑顔を見せ、優しい気遣いをしてくれることもある。シャンクスはそんな彼女が可愛くて仕方がなかった。

彼女の赤髪のシャンクスに抱く憧れは、とても強い。だからこそ、自分の正体を話し、本当のことを言って名前を傷付けたり、幻滅させたくはなかったのだ。とは言え、黙っていることも辛いのは確かだ。
心が痛い。

「そうだなァ。」

「私は明後日にこの島を出ようと思う。ちょうどその日が私の誕生日なの。新しい自分になって出発するのも悪くないかなって。」

突然の出発宣告。
いつか来るとは分かっていたが、辛いものに変わりは無い。と、同時にシャンクスの心を焦らせた。本当のことを言ってしまわなければ、名前とは別れてしまう。

もしまた次に出逢ったとしても、その時は四皇の赤髪のシャンクスとしてかもしれない。

本当のことを知った名前はどうだろう。激しく裏切られたと感じるはずだ。ならば、明後日までに自分がシャンクスだと告げねばならない。

「......。」

「突然黙らないでよ。私も悲しくなるわ。」

「すまない。」

「もうお別れね。あなたと過ごすのは、とても楽しかったわ。もし赤髪という存在を知らなかったら、私はきっとあなたに恋をしていた。」

「名前...?」

差し出された手。握手をしようということなのだろうか。自分にそんな資格があるのか?と思うと、シャンクスはその手を握り返すことができなかった。
差し出された手が、小刻みに震えていた。

「ごめんなさい。迷惑だったわよね。」

名前はそう言って席を立つ。本当ならばここで呼び止めるべきなのだろうが、身体が動かなかった。
グラスを持ったままのシャンクスを余所に、店の扉が開く音がする。名前が扉を開けた音だ。

「...明日は出発の準備があるから、会えないわ。もし、あなたさえ良かったら明後日の朝7時に東の港に来てくれないかしら。じゃあ...ね。また明後日に会えることを願っているわ。」

そう言い残して、名前は暗い闇の中へと姿を消して行った。





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