<仮面の下の純愛>
「私、ローが本当に好きなんだよ?ローにとったら私なんて、ただの遊びかもしれないけど。」
「..........」
「そこに愛がなくたって抱いて欲しいし、キスもしたい。なのに、ローは全然だよね。」
名前の声が震えている。
背中を何かが流れていくような刺激が走る。それは冷たく、まるで水滴のような...
「私が今ここに、存在する意味ってあるのかな?」
ローは我慢出来なかった。
触れたら壊れそうだとか、やったことがないとか、そういう問題じゃなかった。
ここで初めて自分の曖昧な態度が、名前を傷つけていたことを知る。
思いっきり強い力で、ぎゅっと名前を抱きしめた。
「い、痛いよっ!」
「名前!」
Chu.
下手くそな不器用なキス。たった一瞬の出来事だった。
「....ロー?」
名前の唇が柔らかいなどと、そんなこと考える余裕もなかった。ただ、一瞬だけ見えた名前の目から流れる涙は、とても綺麗だった。
「.........クソっ。」
真っ赤に染まる頬を必至で手で隠し、目線を下へと移す。
「.....んだ。」
「どうしたの...?」
「したことなかったんだ!」
頭の中はぐちゃぐちゃで、もう何も考えられなくて。自分が何を言っているのかも、分からなかった。
「女を抱いたこともねェ...っ」
「嘘...」
「今嘘つく必要があるか?」
名前の声が消えた。
情けない男だと軽蔑したか?
ただ間違いなく、驚いた顔はしているだろうな。
どんな表情をしているのか見るのが怖くて、もう一度抱きしめた。いい香りがする。
「名前、愛してる。」
名前からの返事は無かった。先程は回された白い腕も、背中に回されることは無かった。
「まだ信じられないなら何か理屈をつけようか...?」
そう言った瞬間、暗くなる視界。強い力で固定された後頭部が、そこから離れることを許さない。
長い間触れ合う唇。
息をしようと軽く開けると、名前の下がこじ開けるように侵入してきた。ローは必至にそれを絡め合う。
漏れるお互いの吐息が脳を刺激し、身体の筋肉が弛緩していくのが分かる。しばらくの間、その状態を愉しむと名前のほうから離れた。
「フフ、下手ね...。」
「うるせェ。」
ローは拗ねた子どものように唇を少し尖らせ、頬を赤く染めていた。誰も彼のこんな姿は見たことないだろう。素直に可愛いと思ってしまった。
「ロー大好き。」
名前はそっとローの肩に手を回し抱き寄せ、もたれかかった。夢じゃないんだと実感するためにも、目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。
ローのとても速い心臓の拍動がこれでもか!というくらいに、伝わってきていた。
(ドキドキしすぎだよ。)
名前は小さく微笑んだ。
「調子のいい女だ。」
名前の肩に手を回して、そう嬉しそうに呟いたローがいることを誰も知らない。
Fin.