<それでもいい>

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「どういう意味だ?」

「私聞いちゃったの、会話。」

「会話?」

ローは名前を座らせると、こんな面倒なことをしている自分に少し違和感を感じながら、その横に座った。

誰かに優しくするなんて柄じゃない。
しかし、名前だけは違う。何故だか分からないが、悪い気はしなかった。

「どうした、早く言え。」

「........。」

しばらく待っても返事がないのでローはどうしたのか、と顔を覗きこむ。

「おい、聞い..っ。」

聞いているのか?と続く筈だった言葉は、それ以上出てくることはなかった。
突然名前が胸に飛び込んできたからだ。

予想外の出来事にローは驚き、目を大きく開く。どうしたらいいのか分からなかったが、そっと名前の腰に手を回した。

「行って欲しくない...。」

「あぁ?」

「私の傍にいて欲しい。他の女のところには行かないで。」

「あのことか...。」

「ローの近くにいたら言っちゃいそうで...っ!責めてしまいそうで。だから避けてたの!!」

漏れ出てしまった本音。
こうなると止まらない。全てを明かす勢いで名前は話す。

「ローが好きっ!!」

それは突然の告白。あまりの展開にローは戸惑いを隠せない。
頬を赤らめびっくりする顔は、残忍だとかいつもの冷静さは無くて、まるでただの少年のようだ。

「ローのことが大好き。でも、でも...私には忘れられない人がいる。」

そこでローは全てを理解する。
名前が自分の希望通り、他の女に嫉妬していたこと。それを知られたくなくて、ずっと自分を避けていたこと。

(忘れられない奴...赤髪か。)

名前が下から上目遣いで見てくる。
その眼にはまた、うっすらと涙が浮かんでいた。

誘っているのか?と思わずにいられない。その表情にローはちっと舌打ちする。

「怒ったよね。ごめん...。」

申し訳なさそうな顔をして、再び下を俯く。背中に回された名前の手に力が入った。

「......でもいい。」

耳元で囁かれた声に名前は、はっと顔を上げた。
と、同時に腰に当てられたローの腕が名前の背中へと移動する。

一回り小さな身体。
ローは名前の気持ちに応えるように、力強く抱きしめ返す。

「それでもいい。」

彼は一体何を言っているのか、名前には理解できなかった。

「ロー、今なんて...。」

「それでもいいって言ったんだ。言っただろう?お前は何も考えずに、俺のそばにいればいい。」

俺が忘れさせてやる――――。

ローは名前にキスをする。自分の存在を名前の中へ、満たしていくように。

優しく、強く。

例え名前の中に誰かがいようとも、この船に乗ったときからお前は俺の領域の中にいる。
嫌だと言っても、もう二度と出ることはできない。





「ね、ロー。あれ本当なの?久しぶりに愉しむって...。」

「どっちだと思う?」

心配した顔つきでいう名前を、楽しむようにニヤリと笑う。だが、あまりにも名前が悲しそうな顔をするものだから慌てて返事をした。

「.......俺は行かねェ。」

「ほんとっ!?」

ぱァっと屈託のない笑顔に変わる。コロコロと表情が変わる奴だと、半ば呆れまじりにローが笑った。

「安心しろ。俺は名前、お前以外興味が無い。」

「....っ!?」

その時の名前があまりに可愛くて、顔の筋肉が弛緩しそうになる。それを隠すために馬鹿と言いながらすっと頭に伸ばした腕で髪をくしゃくしゃっと乱し、名前の視界を遮った。

「早く寝ろ。」

「もし、まだ...寝たくないって言ったら?」

「早く寝ろと言っただろ。」

「忘れさせて欲しいって言ったら?」

名前がローの腕を掴む。その瞳は何か心に決めたような、迷いのない目をしていた。

「そう言ったこと後悔するなよ。」

強い力で腕の中へと閉じ込め耳元で囁く。

「大丈夫。ローの傍にいる...。」

「いい覚悟だ。」

名前の全部が欲しい。
嵌ったのは名前のほうか、俺のほうか。

ギシ―――ッ。

小さな音を立てて、ベッドのスプリングが軋んだ。





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