<おめでとう>
「「おめでとうございます!」」
名前たちの最初の一言は、その言葉だった。
みんなボロボロの姿に薄汚れ一体何をしてきたんだ?と突っ込みを入れたくなるほど。
心配していたローもその姿と裏腹な彼らの満面の笑みに、どう怒ればいいのか分からなくなる。
あれほど怒ろうと思っていたのに。
「なんでお前ら...。」
「あ、船長!これっ!!」
そうやってシャチからローへ皆からです、と一冊の本が手渡される。
「......なんだ?」
そう言いながらも目を通すと、その本はベポにまた読みたいと話した本であった。
「これは...!!」
「へへ、キャプテン。またこれ読みたいって言ってたでしょ?」
「皆で探してやっと見つけたんだけど、店の人がなかなか売ってくれなくて。」
「あのババァ...。」
「こら、シャチ。だからその店の人の言うことを必死に聞いてたら、こんな時間になっちゃって。」
そんな風に名前たちが、自分の前で申し訳なさそうに謝る。
もう作られていない、この本を見つけるのも大変だったろうに。
そう考えると先ほどまで持っていた怒りなどは、どこかへ消えてしまっていた。
ローはククっと嬉しそうに笑う。
「「船長...?」」
ああ。このプレゼントは有難く頂くが、それよりも嬉しいのはお前らがここにいるってことだ。
嬉しそうに俺の誕生日を祝う、そのお前らの笑顔で十分だ。
「.......馬鹿が。」
小さな声で呟かれたそれに、名前たちが謝る。
「「本当に遅れてすみません。」」
「ごめん、キャプテン。」
「ごめんね?ロー...。」
「フッ、ちげーよ。」
そう言ってプイッと横を向いたローはどこか照れているようで、その日はそれから機嫌が良かった。
最悪だと思っていたのに誕生日も、少しのきっかけで最高となる。
そんな出来事がこの後に起こった。
「でも船長。どうしてその本が?」
「あ、それ!俺も気になった。」
ペンギンとシャチがローにその理由を聞いた。ローが絵本と言うところが、とても気になるのだろう。
「ん?気になるのか?」
ローは表紙を指差しながら、ペンギンたちのほうへと向ける。
「ここ。」
指の差されたそこを見ると、雪と同化したシロクマらしき姿があった。
まさか―――?
「ベポにそっくりだろ。」
言っちゃった!!それ、一番言って欲しくなかった台詞だよ!正直シロクマなんてどれも一緒だろ?
なんて突っ込みたい衝動を抱くが、“そっくりだろ”と言ったローの笑顔にペンギンとシャチはやられてしまう。
顔に手を当てて、赤らめた頬を隠している。
((船長、その顔反則...))
「キャプテン〜〜っ!!」
ベポはよほど嬉しかったのか、ローに抱きついた。それを鬱陶しい、離れろとローは言うがその姿はどこか嬉しそうだ。
「でも、なんで月に虹なの?それって月だよね?」
「あぁ。これは月虹だ。」
昼間の虹と同じ原理で見えるが、滅多に見ることは出来ない。これを見た者には幸せが訪れる、そう言われてるらしい。
「この辺りでは見れるらしくてな。だから、この本を思い出したんだ。」
「え、見れるのっ!?」
「...噂ではな。」
わぁ、見てみたいーと興奮する名前。
満月に満天の星空。
そこにかかる七色の虹。
想像しただけでも幻想的だ。
ゴゴゴゴゴ...。
突如地響きとでも言うのだろうか、海面が微かに揺れ地震のように地面が揺れる感じがした。そしてけたたましい水音とともに、沖のほうで水柱が出現する。
その大きさは今にも月に届きそうなくらいだ。
「ノックアップストリーム...。」
驚くペンギン達に直ぐに無くなる、と名前が声を掛ける。
するとその言葉通り3分もしないうちに、その水柱は無くなってしまった。
が、それはあるものを空に残していくのである。
「あ。ほら、見てっっ!」
名前が興奮した様子で、先ほどノックアップストリームがあったあたりを指差した。
「あ!」「うわっ!」「...!」
そこには虹が出来ていた。ノックアップストリームの空へ突き上げる際の、水しぶきの影響だろうか。
キラキラと淡い七色の光を放ち、月の光にも負けないように輝いている。その奥に見える小さな光たち。
その光景はまるで絵本の表紙のようで、とても幻想的だ。
「.......見れた。」
この時の時刻は11時59分。ギリギリ10月6日 ローの誕生日だ。
「船長。」「キャプテン。」「ロー。」
改めて誕生日おめでとう・おめでとうございます!!
「お前ら...。」
幸せが訪れるという月虹。
それは最悪だと思っていた誕生日を最高の物へと変えてくれる。
大切な仲間と共に。
後日談――――。
「船長!その話俺も読みたいッス!」
「あ、俺も!絵本なら読める。」
ローの元へ行き、シャチとペンギンがそう言った。
難しい本は1ページ読んだだけで眠くなってしまうが、絵本なら多少ページ数が多くても別だ。
ほらよ、とローから二人へと本が手渡される。
シャチとペンギンはそれを嬉しそうに受け取ると、中身をペラペラとめくった次の瞬間目を丸くした。
二人の間に衝撃が走る。
「船長、絵本なんじゃ...。」
「ああ、そうだ。」
「これって絵本とは言わないッス。」
ローから手渡された本はほとんどのページに絵が入っていたが、普通の絵本の字の大きさとは全く違うのである。
「やっぱ船長ってさ。賢いんだな。」
「...ああ。俺たちとは違うな。」
「......うん。」
ペンギンとシャチの二人は、悲しそうに肩を降ろした。
Fin.