<海に住む者>

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深夜2時。みんなが眠る中、名前は一人眠ることが出来なかった。甲板へ出て夜風に当たる。

「はぁ......。」

あの新聞を読んでから、心がずっと落ち着かない。

(シャンクスは今どこで何をしているの?私を探してるのかな...。)

エースの公開処刑まであと2日。

(きっと起こる戦争を止めようと、無茶なことしないよね?。)

「はぁ...。」

名前はもう一度、小さな溜息をついた。遠くまで広がる地平線に浮かぶ満月。その淡い光が、穏やかな水面を照らしていた。
名前がじっと目をやると海面に浮かぶ影が1つ、また1つと増えていく。

「ねぇ...ねぇ...。」

自分を呼ぶ声が聞こえる。だが、辺りを見渡してみてもそこには誰もいない。
耳をよく凝らしてみると、その声は海から聞こえるのだ。

「君たちは誰...?」

名前がそっと問いかける。するとそれに反応した彼らが、次々と姿を現した。つぶらな目をしたイルカたちだった。

「イルカさん...?」

「君は人魚だろう?感じるんだ。でもヒレがないね....。もしかして、名前って子かい?」

「そうよ、私を知ってるの?」

そのイルカは一瞬少し黙った。なぜ黙ったのか名前には検討がついたが、気にとめることはしなかった。
このようなことは慣れている。

「......有名だからね。」

名前はそっか、とだけ小さな声で返した。

「君は知らないかもしれないけど...。いや、今はやめておこう。」

「何か知ってるの?」

「気にしなくていいよ。それよりも最近、海が騒いでるんだ。きっと世界が荒れる何かが起こる。」





「海賊と海軍の動きが目立つね。特に白ひげ海賊団がいろんなところで動いてる。新世界のほうにいる僕たちの仲間も、ずっと騒いでるよ。」

「新世界にいる仲間...?」

「うん。僕たちは、遠いところにいる仲間とも連絡が取れるんだよ。」

「じゃあ、もしかしてシャンクス...赤髪の居場所も分かるっ!?」

そのイルカは少し考えているような素振りを見せると、口を開いた。

「場所は分からないけど、カイドウと赤髪の船の場所がやけに近い、って言ってた気がする。」

普通、この海では何もない限り、大きな海賊団同士が近づくことはない。はっきりとした領海は無いが、無駄な争いを避けるためある程度一定の距離を置く。
その距離が近いということは、何かが起こるということだ。

「海が荒れるのは嫌だな。海に住む僕たちは、ただ静かに過ごしたいだけなのに。」

だから今から移動するんだよ。じきにここも荒れる。
そう別のイルカが答えた。

「移動するってどこへ?」

「ずっと遠くさ。名前、早くこちらへ戻っておいで。海に住む僕たちは、君の帰りをずっと待っているんだよ。」

「どういうこと?私は呪われた子と蔑まれたのに...。」

「それは彼らが知らないからさ。君は人魚...「おい」」

突然のローの声に、名前の身体がビクっと反応した。

「じゃあ、僕たちは行くよ。忘れないで、海に住む多くは君の帰りを待っている...。」

それだけを言い残し、パシャンと音を立て、イルカたちは海の中へと戻っていった。

一体どういうことなのか。話が全く繋がらない。分かったことと言えばシャンクスと、カイドウの間に何かが起こるということ。
名前の抱える不安が増した。

「ロー、どうしてここに...。」

「いつまで経っても部屋に戻って来ないからな。」

だから迎えにきたみたいな言い方。もしかして、心配してくれたのだろうか。

「ごめんなさい。」

「...お前は魚と話ができるのか?俺には話しているように見えたが?」

カツン、カツンと音を立てて近づいて来るローから、視線をそらすことが出来ない。本当のことを言うべきか。
先ほどのことも見られていたとなると、ロー相手にこれから先、隠すことはとても難しい。

「私は...っ。」

「とりあえず部屋に戻るぞ。そこで聞く...。ついでに傷の経過も見てやる。」

グイっと引っ張られた腕。シャンクスもいつもこうだった。彼はいつも早く、早く!と少年のような笑顔で急かしてきた。
ローはそれとは対象的でいつも無口だ。
変わらないのは腕をひく力。名前はローに、シャンクスの姿を重ねた。

(何もなかったらいいけど...。)

「ほら、来い。」

「うん...。」

(シャンクスもみんなも無事でいて。)





船内はみんなが寝静まっているため、とても静かだ。二人の足音だけが響いている。
これからローに、どんな風に説明すればいいのか名前は考えていた。

「ベッドに座れ。」

部屋に着くと、ローの指示。それに従い、名前はベッドのふちに腰をおろす。

「傷口から見る。脱げ。」

「今ここで?」

「当たり前だ。お前のせいで目が覚めて眠れねェ。」

そんな言われ方をすると、脱ぐことを断ることもできない。しかし、脱げと言われても羞恥心が邪魔をする。
いくら傷の経過を見ると言われても、好きな男の前で自ら脱ぐなど簡単にできるものでは無い。

「...遅い。俺を待たせるな。それとも...脱がせて欲しいのか?」

「なっ!違うからっ。」

「ククッ、なら早くしろ。」

こうやっていつもペースを崩される。恥ずかしさはまだあったが、名前は仕方なく自分の服に手をかけた。






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