<呪われた子>

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「おお、もうすぐ産まれそうじゃ。」

「んーっ、痛い!!ハァ...ハァ...っ!」

「もうすぐ、もうす...。」

ここは魚人島のはずれの人魚の住む都。今この瞬間、新しい命が誕生しようとしていた。

「「おお.....っ!!」」

医者を含めた家族の者たちの歓声と共に、オギャ―っと赤ちゃんの産声がその部屋に響き渡る。しかし、その歓声は長く続かなかった。

「なんと...。」

「そんな...っ。」

「あ、あ、足がある...!!」

産まれたばかりの赤ん坊には、美しい人魚のヒレではなく人間の足、そのものが生えていた。異形だと誰かが呟く。

「の、呪われた子だ......!」

ある者は口に手を当て黙ったまま、ある者は驚きのあまり目を見開いたまま。その部屋に立ちつくす。産まれて間もない赤ん坊の声だけが、その部屋に悲しく響いていた。









「王、大変ですっ!」

「なんじゃもん...。」

「それがっ!」

この赤ん坊の話はすぐさま王の元に届けられた。呪われた子と忌み嫌われ、育て親もいなかったために、王の計らいで秘密の子として城で育てられることになった。それから数年の時が流れ、10歳になったその子はこの島を出ることを決意する。

「私、この島を出るわ。」

「どこに行くつもりじゃ?」

「わからない...。」

ただ、なぜ人間のように産まれたのかそれを知りたいのと彼女は答えた。

「許可できぬ。
外は危険なんじゃもん。」

「剣術なら少しはできるわ!」

「知っておる。しかし、しかしじゃ。」

「私は少しでも知りたいの!!」

「ぬ......。」


まっすぐ見つめてくる彼女の瞳に、強い意志を感じたネプチューンは“少し待ってるんじゃもん”と言って席を立つ。

「すまぬ、待たせた。」

部屋に戻ってきた彼の手には、一つの刀が握られていた。それに気付いた名前はきょとんとした顔付きで問う。

「それは...?」

「これは王家に伝わる刀じゃもん。」

普通のものより少し長い刀。海のように青く輝くそれに名前は目を奪われる。

「これをそなたに託す。」

「え.....?」

「古い言い伝えがあるんじゃもん。
とにかくそなたに託す。」

そっと王から渡された刀。長い刀身にも関わらずとても軽く、海のエネルギーを感じた。

「名前........。」

王が呪われた子の名を呼んだ。
足がヒレではなく、人の足ということ以外は紛れもなく人魚の美しさを持った少女。それも人魚の中でも稀に見る美しさを持つ。

「分かってると思うが....。」

「人魚ということは内緒に、でしょ?」

「ああ、そうじゃ。」

「大丈夫よ。この足じゃ私は人魚とは言えない。」

「待て、まだ話が...っ。」

「明日の早朝発つ。船を一隻お願い。」


そういうと名前は、静かに廊下へと消えていった。かける言葉が見つからなかった。王は慌てたように、すぐさま家来に出発の準備を手配させ、世界にいる魚人たちに連絡を取る。呪われた子が旅発つ、と。

(辛いだろうがこれも定め...。)

王家に伝わる伝説の中の一つに数百年に一度、人の足を持つ人魚が生まれる、という話がある。
その人魚には首筋に特徴的なアザがあり、すべてを魅了する美しさをもつ。青い海の刀を持ったその人魚が海へ帰るとき、その涙は全てを癒す力があるという。

(世界が動きだした時その力がきっと必要になる...。)

しかし、肝心の海へ帰るとき。それがどういうことなのかまでは王にもわからなかった。
この島から出れば何かがわかるかもしれない。そんな思いで王は、たった10歳の呪われた子の旅だちを許可したのだった。










「もう行くのか?」

「うん。」

「彼らと海面まで行くんじゃもん。」

そこにいたのはネプチューンが用意した、たくさんのサメの群れ。これなら襲われることもなく早く海面にたどりつけるだろう、と船の周りを囲むように配置した。

口数の少なかった名前だったが、今から出発というときになってネプチューンを見つめて“ありがとう”と呟いた。

「あなたは本当の親のように私に愛情を注いでくれた。だから例え呪われた子と言われても今まで生きていこうと思えた。」

「名前......。」

「最後まで我儘言ってごめんなさい。旅を許してくれてありがとう。」

どこへいっても呪われた子と、ずっと冷たい視線を浴び続けてきた。それでも王とその家族だけは、自分を守ってくれて強く抱きしめてくれていた。その日々を思い出すと、涙が止まらずにはいられない。

「本当に...っ。感謝、し...て。」

ネプチューンはそんな名前を小さいときから抱きしめていたように、そっと抱きしめる。

(ずっと我慢していたのか...。)


抱きしめたことは何度もあったが、うわぁーん!と名前が大きな声をあげて泣く姿を見るのは初めてだった。思わず目が潤んだ。
ひとしきり泣いた彼女は、もう大丈夫といって涙を拭う。

「じゃ、私行くね。」

「お節介とは思ったんじゃが...。」

そう言って出された一枚の白い紙ビブルカード。

「まずはこれを辿っていくんじゃもん。そなたの事を頼んでおいた。」


とても信頼できる海賊だ、と。
“全てを話してある。強さも申し分ないから何かあっても守ってくれるはずだ。”そうネプチューンは言った。

「分かった。じゃあ......行ってきます!」

その紙を受け取ると、決意がぶれてしまわないように。また涙が流れてしまわないように、一度も振り返ることなく彼女はこの島を発った。






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