<三角関係>

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名前が2人を気にして辺りを見回していると、船内へのドアがガチャリと開いた。
そこから出てくる2人。その空気はどこか重苦しい。何か難しい話でもしていたのだろうか。仲を取り繕うように2人の元へと、いつもより明るく振舞い、駆けていく。

「何の話してたの?」

「お前には関係ない。」

「そんな言い方しなくても...。」

この様子ではローは教えてくれそうに無い、教えてよ、とチラッとシャンクスを見る。
それに気付いたシャンクスは、難しい話だと笑って誤魔化した。
明らかに2人ともおかしい。

(私のせい...?それとも...。)

自分がこれからどちらの船にいるのか、という話だろうか。それならもう答えは決まっている。
それとも自分の知らない過去の話だろうか。二人の間に何があったのだろう。

悩める名前にシャンクスが、青い剣を手に持ち、声を掛けてきた。

「なぁ、名前。話があるんだが、いいか?」

手に持ったそれを見せる。

「それ、どうして...。」

「店にな。置かれていたんだ。あの時何があった?」

「それが...。」





「そうか。レイリーさんにも会ったんだな!まさか名前にそんな力があるなんて、俺も思いもしなかった。」

「私もだよ。でも、良かった。この剣が私の元に戻ってきて...。」

名前はきゅっと剣を胸に抱く。
いろいろな経験をしたからだろうか、海のエネルギーが流れてくるようなそんな感じがした。
後ろのほうで宴の賑やかな音が聞こえるがシャンクスと名前の間には静かな空間が広がっている。

優しくてあったかい。久しぶりの居心地を楽しむ。すると、ふと横から強い目線を感じた名前はシャンクスのほうに顔を向けた。じっと見つめてくる強い眼差し。

「なァ...。」

「んー?なぁに、シャンクス。」

「名前、俺の船に戻って来い。」

「え、今なんて...。」

「名前を迎えに来たんだ。もうローの船に用はないだろう?だから戻って来い。」

「そのことなんだけど、私は...。」

本来ならば必要な情報を手に入れたら、シャンクスの元に戻るつもりだった。しかし、同じ時間、同じ空間を一緒に過ごすに連れてローに恋をした。

彼は自信満々に時に不器用ながらも、複雑な役割を持つ呪われた自分を認め、シャンクスが忘れられない自分を受け入れてもくれた。名前はそんなローを信じずっとそばにいる、そう決めていた。

“みんなの元には帰らない。”

そんな名前にシャンクスから放たれたのは、その意思を打ち消す様な決定的な一言。

突然の船長命令ーーーー。

「ローも了承済みだ。」

「嘘っ!絶対嘘、!ローがそんなこと言うわけないっ。」

名前は大きな声を張り上げる。あれだけ私は自分のものだと、言い張っていたんだ。了承するわけないと気持ちが荒ぶる。

「おい、落ち着け!名前。」

「シャンクス。さっきローに何か言ったのね?」

シャンクスの胸ぐらを掴み、ドンドンと何度も胸を叩く。

「名前...?」

自分の胸の中にいる名前の耳元でローとお揃いのピアスが、激しく揺れていた。
キラッと光るそれは、嫌でもシャンクスの視界に入る。名前の態度を見ても、ローとの関係は普通の船長と船員では無いことは明らかだった。

(お前は...。)

シャンクスの心に軽く。締め付けられたような痛みが走る。

そこへシャンクスを必要以上に攻め立てる名前に見かねたのか、遠くで様子を伺っていたローが、こちらへやって来る。
それに気付いた名前が気まずそうに、そっとシャンクスから離れた。

シャンクスの言葉は嘘だと、そう言ってくれることを願いながら。

「名前、赤髪の言う通りだ。」

その答えはあまりにも残酷でその衝撃故、一瞬時が止まったかの様だ。
胸の前に残された名前の腕が力なく重力に従うように、ゆっくりと下へおろされた。

「名前、お前は俺の船を降りろ。話を聞いたが、いろいろと面倒だ。俺は面倒事に付き合うつもりは無い」

「本当に言ってるの?」

「本当だ。後でペンギンに荷物を運ばせる。お前はもう船に戻ってくるな。」

あまりにショックな出来事に、涙が溢れそうになった名前の身体が小さく震えている。今までのローはどこへ行ってしまったのか。

涙ぐんだ目でシャンクスのほうを見ると、彼は名前の肩に手を置き、そっと頷いた。
 
しばらくすると自分の荷物がローの船から運び出される。信じたくない光景だったが、いざ運び出されるとその流れに従うしかない。

もう一度、船に乗り込むことさえ許して貰えなかったため、シャンクスの船から荷物が運び出されるのを見ていた。
ドア付近でペンギンとローが、何か話しているのが見える。


「船長。本当に名前ちゃん。船から降ろすんですか?」

「ああ。元はと言えば名前は赤髪の船員だ。」

「いいんですか、それで!船長は名前ちゃんのこと、好...。」

ペンギンの言葉が詰まった。喉元に鬼哭の剣先が当てられているからだ。

「うるせェ。これ以上何か言うとバラすぞ。」

ローの怒りに満ちた表情と身体から溢れる気迫に押され、ペンギンは静かに口を閉じた。

名前には話の内容は聞こえなかったものの、ローの機嫌が悪いことだけは分かった。

怒らせてしまったのだろうか。こうなると分かっていたのなら、もっと早くに自分は赤髪海賊団の一員だと伝えるべきだった。
そう、名前は後悔する。

「お前の荷物は全て運び出した。」

コツコツと音を立ててローが近付いてきた。
今、ここには二人きり。名前は納得出来ない!と心を露わにし、ローに駆け寄る。

「ロー、言ったよね?そばにいろって。なのにどうして!?」

「......気が変わった。」

「絶対嘘!シャンクスに何言われたの?急に船を降りろなんて納得できない。」

「名前は赤髪海賊団の一員だろう。納得できないも何も俺たちを騙していたのはお前だ。なぜ黙っていた?」

「それは......っ。」

名前は何も言えずに黙ってしまった。
今は騙そうなどと思ってはいないが、最初にそう思っていたのは事実だ。今更本当のことを話しても、それはただの言い訳にしか過ぎない。
そう思うと、もう何も言うことが出来なかった。

「俺たちはもう行く。久しぶりに帰ってきたんだ。お前は宴でも何でも楽しむんだな。」

ローからの最後の言葉は、どこか名前を皮肉っていた。そして船は海の底へと消えていく。

短い間、一緒に旅をしたハート海賊団の船員たちとの別れを惜しむことさえも許されず、最後に彼らの姿も見ることも出来なかった。

「...........っ」

まるで海中から海面に浮かんでは、弾けていく空気の泡のようにローは名前の前から姿を消した。





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