<医者>

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もうすぐローに会える。寒い空の下、モミの木の下に立って彼を待っていた。仕事だと思っていたのに、私のために早く切り上げてくれたらしい。
その優しさがとても嬉しかった。

どんな風に今日は過ごせるのだろう?夢見る乙女のように、期待に胸が膨らんでいた。
約束の時間まであと5分だ。着いたよ、のメールを送ろうか。鞄の中の携帯に手を伸ばすと、ディスプレイが光っている。

(ローだ。もうすぐ着くのかな?)

きっとあの時の私は、嬉しそうに携帯を取り出していたと思う。だけど、一瞬にして私の中の何かが崩れ落ちた。

「っ...、一緒に過ごしたかった。」

暗い部屋の中で、私の鳴き声が響く。
仕方ないって分かってる。ローは医者だもの。誰かが彼を必要としているのなら、どんな時でも行かなくちゃならない。
だけど1年前も、2年前もそうだった。

一人ぼっちのクリスマス。2年とも一人で、ローと食べるはずだったケーキを食べた。今年こそはと思って、今年はケーキを買わなかった。
でも結局、同じなんだね。

「もう信じれないよ。」

仕事と私、ローにとってどっちが大切なんだろう。
終わりにしよう、そう言えたらどんなに楽なのかな。ローが好き過ぎて辛い。これからこの先も一緒にいられる保障なんてないんだ。
ならばいっそ、もうこのまま...。





手術室の扉が開く。

「先生、すみませんでしたっ!!」

「いや、気にするな。」

「でも今日早く帰ってたし、大事な用があったんじゃ...。」

「もう終わったことだ。」

血のついた手術着を脱ぎ捨ててながら、時計に目をやった。時刻は11時30分。今日ももうすぐ終わる。一年に一度のクリスマスも、だ。

携帯の電源を入れる。
着信0、メール0。今年こそは、とそう思っていたのに。誰のせいでもない、それは分かってる。だけどまた、あいつを泣かしてしまった。

「......クソッ!」

やりきれない思いを抱えたまま、病院を出た。***に電話してみるか?いや、でももうこの時間だ。もしかすると寝ているかもしれない。悲しい思いをさせたんだ、出てくれる保証すら無い。
それにもし借りに出てくれたとしても、その後にどうすればいいのか分からない。
ただ一人、自宅へと足を向ける。

いいのか、これで。
本当にこれでいいのか?


「今年こそは一緒に過ごせるんだよね?」

「ああ、約束する。」

「分かった。ローを信じる。今年は一緒に過ごそうね、約束だよ。」


俺は足の向きを変えた。あの場所にいないって分かってる。自分でもなぜそこに向かうのか分からないが、それでも***の存在を少しでも感じたくて。

患者とお前、どちらが大切だと聞かれたら患者を優先してしまう俺だが、それでも伝えたい。

今の俺があるのは***がいるから。お前がいるからこそ、息つく暇の無い日々だって乗り越えていける。

愛してる。
これからも一緒にいて欲しい。





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