09

 まさか、馬で乗り物酔いをすることになるとは思わなかった。この体があまり酔ってもひどくならない体質で助かった。ここまで来るのにかなりの距離があったが、馬たちはほとんど整備されていない道を2日かからないで走り切ってしまった。きっとこの世界の未来は車はいらない。さようなら未来の自動車産業……。

 そして今、私の目の前には砂漠が広がっている。たぶん砂漠ではないのだけれど、私の中で一番しっくりくる言葉が砂漠しかない。海が近くにあるわけでもないのに砂地が広がっているのか不思議だ。

(こんなところに城があるのかしら……)

 交通の便悪そうだな、と思っていると少し遠くに森が見えた。緑が目にまぶしい。木があるということは水はあるのだろう。人は住める環境のようだ。

 砂でできた小高い丘にのぼると、切り立った崖の上に城が立っているのが見えた。父上が口を開く。

「あれが月山富田城……難攻不落の天空の城よ」

 確かにアレはちょっとやそっとでは落ちそうもない。よくあんなところに築城したものだ。

「風向きによって登ることができる所が変わるのだ」

 父上はそう言って、ぐるりと崖の裏へ回る。石垣を作らなくてもこの崖があれば攻め込むのは難しい。地形を生かした城、ということなのだろうか。

 崖の裏まで回っていくと、確かに砂でできた坂道が崖の上まで続いていた。城まで一気に駆け上がると、すぐに兵がやってきて門の中へ通された。

(まわりに何もないから見張りもしやすいのかな)

 難攻不落の城に感心しつつ、馬を下りて砂を払っていると強い風が吹いた。砂が舞い上がって風が痛い。

 風がやみ、視界が晴れると初老の男がそこに立っていた。

「経久殿……普通に出てきてください」

 父上は少し呆れたように言ったが、声がどこか楽しそうだった。

 ふと、父上の相手によって態度が変わるところが私に似ていると思った。家臣には絶対あんな声を使わない。だが、この初老の男…尼子経久の前の父上が本当の父上とは限らないのだ。いったい本当の父上はどんな顔をしてどんな声で話すのだろう。

 考え事をしていたら、私は尼子経久に抱き上げられてしまった。近くで見るとすごくかっこいい人だ。

「子供は少し大げさな方が喜ぶんだよ」

 そう父上に言ってから私を見る。尼子経久は私に笑いかけてきたが、その目には私を見定めるような鋭い光が浮かんでいた。

「……っ」

 私はこの人の目から、目をそらすことができなかった。冷や汗が背中を流れる。体のすべての器官が、危険信号を放っていた。でも、蛇ににらまれたように体が動かない。

 はたから見れば、ただ幼い私が人見知りをしているようにしか見えなかっただろう。周りの兵たちは私たちを見てほほえましげな顔をしている。尼子経久は私をゆっくり地面におろす。

「歓迎しよう」

 恐ろしいその人はそう言って、ニヤリと笑った。


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