いざ情報収集へ

「私が守ってみせる。絶対に、絶対にこの子たちは傷つけさせない」

 そういつも俺たちに言って守ってくれた姉貴。
 姉貴も世間一般から見るとまだ幼かったはずだ。けど凄くしっかりしていた。俺たちを本気で守ってくれてた。

 俺だってはっきり覚えてないところはある。名前も、ぼんやりとしか思い出せない。普通なら覚えてるはずだろうが、逃げたりと波乱万丈だったので、あまり覚えてなかった。
 俺でもそうなんだ。シクルに至ってはほとんど覚えてない。しかしすごく稀だが、夢を見ることがあるらしい。でもぼんやりとして、やはり分からないといっていた。

「大丈夫。だから安心して寝ていいわ」

 とても優しい顔で笑って俺たちを安心してくれた。その顔はよく覚えてる。
 幼かったシクルが泣いていても、泣き止むくらい優しく、温かい笑顔だった。シクルも少し覚えてるんじゃないかな。

 こういう記憶を思い出すのは別に嫌いじゃない。けれど、やはり胸に突き刺さるものがあるのだ。


 1番思い出すのは、姉貴と別れたとき。

「その条件をのむわ。だからこの子たちに手を出さないで」

「いい? レンス、シクル。2匹だけで今から逃げるの。そして誰かに助けを求めなさい。信じられると思ったポケモンに」

「私のことは忘れて。貴方達は生きるのよ。強く、強く心を持ちなさい」

 そう言って別れた。別れは随分と呆気なかった気がする。
 今になって度々思う。何で止められなかったんだろうか、と。守ってもらったのに、本当に情けない。

 そんなことを考えながら、目を開けた。久々に、思い出した。

「…………懐かしいな」

 もう、会えないんだろうな。姉貴には。









 スウィートが目を覚ます。そこは見慣れた、だが懐かしい場所だった。

「……そっか。そういえばギルドに帰ってきたんだった」

 寝ぼけながらもスウィートは体を起こす。よほど眠いのか、うとうとして危うい。

「おい、スウィート。大丈夫か?」

「ふわぁ!?」

 横からいきなり声をかけられ、スウィートはビクッと体を揺らした。
 反射的に声のした方を見ると、アルが本を持って座っていた。どうやら寝ぼけすぎて全然気付かなかったらしい。
 アルは苦笑しながらスウィートに声をかけた。

「悪い。驚かせたか?」

「う、ううん。気付かなかったのは私だし。ごめんね。おはよう」

「おはよう」

「んぅ……スウィート? どーかしたー? ふぁぁあぁ……」

 アルと挨拶を交わしていると、また違うところから声が聞こえてきた。完全に寝ぼけている声。

「あ、おはよう。フォルテ」

「んー……はよー……」

 完全に寝ぼけているようで、きちんと喋れていない。本人は目を擦ったりして、起きようとしているが。しかし眠気はなかなかとれないらしい。
 スウィートは苦笑しながらフォルテを見た後、窓を見た。完全に太陽は昇っているようで、また見れなかったようだ。最近、全くといっていいほど見れていない。

(色々あって疲れちゃうからな……。でもとりあえず頑張らないと)

「あー……早く起きすぎちゃったかしら? もうちょっと寝ればよかった……」

「二度寝するなよ。しても起こさないからな」

「…………。」

 どうやら図星らしい。二度寝する気が完全にあったようだ。アルは溜息をついてから本を閉じた。

 チラッとシアオを見ると爆睡している。幸せそうな顔をして。
 そして、シアオに死亡フラグがたった。

「起きろ、この馬鹿シアオがぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁ!?」

「フォルテ!? シアオ!?」

「アホか……」

 フォルテがシアオに火の粉を食らわし、シアオの絶叫が響いた。スウィートは瞑っていた目を開け、アルは呆れたような声を漏らした。
 因みにスウィートがいつものようにシアオに手当てしたのは仕方のないことである。








「お前らな……。帰ってきて早々、朝から絶叫が聞こえるってどういうことだ?」

「ごめんなさい……」

「すみません」

「いや、僕は全然 悪くないんだけど!?」

「アンタのせいでしょ!?」

 ディラの少しのお説教を聞いて、それぞれが反応する。言葉からして誰かは判断できるだろう。
 全く悪びれもないのは元凶2匹。確かにシアオは悪くないのだが。悪いのはフォルテなのだが。

「まぁ、いい。とりあえず今日のことについてだ。
 昨日きめた役割。湖にいく者、真実を伝える者、“幻の大地”について調べる者だ。湖にいったり、話にいったりする者はそれが終わり次第“幻の大地”の捜索にあたってくれ。
 大変だと思うが、頑張ってくれ。いくよ、皆!」

「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」」」」」」」」

 声を聞く辺り、よほど気合が入っているようだ。昨日の気合は抜けてないらしい。
 それぞれ決められた役割を果たすため、すぐに弟子達は動き出した。

「さてと、私たちはどうしようか?」

「ちょっといいかな?」

 スウィートが3匹の方を向いて問いかけたすぐ後、ロードに声をかけられた。朝礼の後にロードから声をかけられるのは初めてなので、『シリウス』は不思議そうに首を傾げる。
 ロードはいつもと変わらぬ笑顔で話し始めた。

「“幻の大地”のことなんだけど、確かに僕は何も知らない。けど、温泉にいるコータスのヘクトル長老なら知ってるかも」

「温泉……? コータス……?」

 どこかで聞いた気が、とスウィートは首を傾げる。しかしぼんやりとしか出てこず、なかなか思い出せない。
 「うーん」とスウィートが悩んでいると

「それって……ヘクトル・ウァイヤ長老ですか?」

「あれ、何だ。知ってるの?」

 アルが答えた。そしてスウィートはあ、とすぐに思い出した。
 初めて探検に行ったときに、激流に流され温泉に落ちた。そしてそこにいたのがヘクトル・ウァイヤだ。スウィートはそうだと1匹で納得していた。

「じゃあ話は早いね♪ とりあえずヘクトル長老に聞けばいいと思うんだ」

「分かった。ありがと、ロード」

「うぅん。じゃあ頑張ってね〜♪」

 シアオがお礼を言うと、ロードはニコニコ笑いながら自室に戻った。そして今日やることが決まった。

「じゃあ今日は温泉にいくってことになるよね?」

「うん。そういう事になるね。じゃあ……まず“滝つぼの洞窟”に行こうか」

「……あ、そうだった。あたしパス」

「逃がすか、アホ」

 逃げようとしたフォルテだったが、アルに捕まった。スウィートとシアオは何故フォルテが逃げるのか、と首を傾げる。
 そしてスウィートは「あ」と声をあげた。そういえば水に流されなければならない。フォルテは炎タイプだ。水は苦手なのだろう。

「はーなーしーてー! あたしは嫌よ、流されるなんて!」

「諦めろ」

「フォルテ、悪あがきはよくないよ」

「アンタは分かったような口を利くな!」

 アルに捕まれながらも、シアオの言葉にはっきりと返すフォルテ。でも逃げようと力は緩めていない。
 スウィートは苦笑するしかできない。でもタイプ的には仕方ないのではないか、と考えてしまうのがスウィートだ。

「あの……その、タイプなんだから仕方ないんじゃないかな?」

「よね! スウィートはよく分かってるわ!」

 スウィートがそう発言した途端、フォルテはパァッと顔を明るくした。凄い分かりやすい奴である。呆れてアルは溜息をついている。シアオは「うわー」的な感じで見ているが。
 フォルテはそれで調子にのってか、急に饒舌になる。

「そりゃタイプだから仕方ないわよ。だって生まれつきだもの! 好き嫌いもないわ。それにダメージだって食らっちゃうし。そもそも炎タイプに水で流れて来いっていうのが可笑しいのよ。アルはとやかく言ってるけど、それはタイプ苦手とかないからだけよ。
 だからあたしはここで――」

「よし、行くか」

「ちょ、ちょっと、はなしなさいよぉぉぉぉぉおおぉぉ!!??」

 だがアルの前では無意味。首根っこを捕まれて引きずられていった。

「いいのかなぁ」

「スウィート、アルの前じゃ無意味だよ。それにさっきのどう聞いても言い訳だし。うん、きっともう無駄だと思う」

「……だよね」

 そんな会話をしてから、スウィートシアオもアルを追いかけていった。






――――滝つぼの洞窟 最深部――――

「死ぬ……。あたしは今日で死ぬんだ……」

「あの、フォルテ……? 大丈夫だからね……?」

 時間は過ぎ、もう最深部。
 スイッチがある場所にはもうあの大きい宝石はない。フォルテが壊したからである。そこは綺麗に穴がぽっこりと開いていた。無残である。
 因みにフォルテは引きずられ、最深部に近づくと暗いオーラを放っていた。

「フォルテは大げさだよねー。死ぬわけないじゃん!」

「あ゛ぁ゛? アリアドスとかの場所に連れてってあげましょうか?」

「スミマセンでした」

 明らかに不機嫌。あまりの怖さにシアオは即行で謝った。因みにつれてきた本人は気にした様子はない。

「さて、じゃあスイッチ押すか」

「……フォルテが怖いんだけど、アル」

「知らん」

 バッサリと切り捨てられた。流石アルだ。
 スウィートは苦笑してから穴に近づいた。そして手探りでスイッチを探す。

「えぇと……ここ、じゃない。ここ……うーん……」

 するとカチッという音がした。「あ、できた」とスウィートが呑気に呟くと、フォルテが何か叫んだ。あえて無視しておこう。
 っして暫くしてゴゴゴ……という音がしだした。フォルテの体も震えだした。

「うわー……これ息を思いっきり吸い込んでおいたほうがいいかな?」

「勝手にやってろ」

「ま、まぁ個人の自由じゃないかな?」

 音はますます近くなってきている。なのに呑気すぎる3匹であった。まぁ、知っているから仕方ないことなのかもしれないが。
 するとスウィートが「あ」と声をあげた。

「前はフィーネさんがいたからいいけど……落ちて大丈夫なのかな」

「あ」

「もう嫌ぁぁぁぁぁあぁぁ!!」

「…………。」

 やっちゃった。そんな言葉が似合う『シリウス』。
 そして音がますます近くなり、奥の方から……水が見えた。そして4匹とも「あ、終わった」と一致して思った。

「「きゃぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」」

「「うわぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」」

 無残にも流されていった4匹であった。




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