決意

「指名手配犯の……!」

 シアオがジュプトルの方を見ながら、驚愕と怒りが混じった声で言う。
 ジュプトルはシアオたちの方をチラリと見ると、すぐにミュエムのに目を移した。

「とんだ勘違いだったな、ミュエム・ローシェル。指名手配の紙も出されていたのに」

「なっ……なんでアンタまで、私の名前を知って……!?」

 ミュエムが驚いているのを気にも留めず、ジュプトルは湖の方にへと一歩踏み出す。
 そして何処か冷めたような目でミュエムを見ながら言う。

「そんな事はどうでもいい。時の歯車≠ヘ貰っていくぞ」

「だ、誰がそんな事をさせると、ぐっ!!」

「そのダメージで何ができる? 諦めろ」

 そう言ってジュプトルはどんどん湖に、否、時の歯車≠ノ近づいていく。
 ミュエムは先ほどのダメージが体に響いたのか、苦痛の声をあげた。どう見ても動けそうにも無い。興味がない、といったようにそのままジュプトルは進んでいく。
 その前にシアオとアルが出た。

「そ、そんな事させない!!」

「時の歯車≠盗ませるわけにはいかないんでな」

 2匹は技の準備をする。
 ジュプトルは歩みは止めたが、顔色は全く変えない。そして

「悪いな、時間がないんだ」

「へっ!?」

「なっ!?」

 ポツリと言葉をこぼすと、シアオとアルの視界から瞬時に消えた。
 しまった、と2匹が思ったのも束の間

「リーフブレード」

「うわぁ!!」

「ぐっ!!」

「シアオ! アル!」

 シアオとアルの体がとばされる。
 おそらくジュプトルがでんこうせっかや高速移動などの速さをあげる技で一気に近づき、そしてシアオとアルに攻撃を食らわせたのだろう。
 前にたちふさがる邪魔者がいなくなったところでジュプトルは湖に近づく。そして近くにあった岩を砕き、湖に投げ込んだ。
 すると時の歯車≠ワでの岩の橋ができた。それを渡り、ジュプトルは時の歯車≠ワで近づいてく。

「これで4つ目!!」

 ジュプトルがそう言いながら、時の歯車≠手にかける。
 その瞬間、スウィートの目がゆっくりと開いた。

 そしてジュプトルが時の歯車≠盗るのを見ながらポツリと

「……あと…………1つ……」

 と小さく、誰にも聞こえないように呟き目を閉じた。
 その時の瞳の色が何色だったかは、誰も分からない。

 そしてジュプトルが時の歯車≠盗った瞬時にゴゴゴッ、という音が大きく場に響いた。
 それと同時に時の歯車≠フ場所を中心にどんどん場所が灰色に染まっていく。更に“地底の洞窟”は地震のように揺れ始めた。
 シアオやアル、そしてフォルテはパニックになる。いったい何が起こっているのか、と。
 その間にジュプトルは逃げていた。

「何コレ!? 何が起こってんの!?」

「時の歯車≠盗ったから……此処の時間が停止しているの……! 早く逃げなきゃ……!!」

「「「!!」」」

 ミュエムの言葉を聞いて、全員が驚愕する。
 そして近くにいたシアオはスウィートを、アルはミュエムを担いで“地底の洞窟”から出た。
 時が停止するところを、しっかりと目にやきつけて。






「ごめんね……。貴方達を盗賊と間違えてしまって……。貴方達は逆に時の歯車≠守りに来てくれていたのに……」

「いやいや、別に誰にでも間違いはあるって! しょうがないよ」

 ミュエムが謝ってくるのに、シアオがブンブンと首を横に振りながら答えた。
 今はダンジョンから出てトレジャータウンに向かっているところだ。スウィートはまだ目を覚ましていなかった。
 するとアルが思い出したように質問した。

「そういえば……ヒュユンさんから聞いてたと言ってたけど、どうやって?」

「あぁ、テレパシーよ。私達は遠い所でもテレパシーで会話をする事ができるんだ」

「へぇ……」

 3匹が納得したような顔をする。
 そしてフォルテは一旦、ミュエムの方を向いた。

「とりあえず……ミュエムはジバル保安官の元に行きましょ。あの場所には当分、戻れないだろうし……。それにヒュユンもいるらしいし、好都合でしょ?」

「ヒュユンもいるのか! 久しぶりに会うから楽しみだなぁ……!」

 ミュエムの笑顔を見て、余程ヒュユンと仲がいいのだな、と確信した3匹であった。








――――ギルド――――

「ん…………?」

 スウィートが目を開く。
 1番に見えた場所は見慣れた部屋。数回パチパチと瞬きをすると、体をゆっくり起こした。そして寝ぼけた頭がようやく覚めてきて、この場所が自分達の部屋だということに気付く。
 窓を見るとすっかり暗くなっていた。

「……わたし、どうしたんだっけ……?」

 まだ寝ている頭で必死にこれまでの記憶を探る。
 そして……ようやくハッとなり、“地底の洞窟”の事について思い出した。そしてすぐに辺りを見る。

「シアオ……フォルテ、アル、は……?」

 何処を見ても誰もいない。
 そして頭の中で此処がギルドという事に気付いて、すぐに3匹が居そうな場所にスウィートは転がるように駆け出した。
 そしていそうな場所に出ると

「え、あ、きゃっ!?」

「「「「「「「!?」」」」」」」

 見事にスウィートはこけた。

 いそうな場所、いつも朝礼をする場所に全員いたので、驚愕しながら振り返る。
 スウィートは視線に気付いて恥ずかしくなり、若干、涙目になりそうだった。というかなっていた。

(何で、何でこんなタイミング悪くこけるかな……!?)

「あ、スウィート起きたんだ! よかったぁ!」

 スウィートが1匹こけたことについて恥ずかしく思っていると、シアオが近づいてきた。心底安心したような顔をしている。
 しかしシアオを見た瞬間、恥ずかしい思いやら何やらをすぐに抹消した。そして一気にシアオに詰めよる。

「シ、シアオ、怪我は!? エムリットさんは!? 時の歯車≠ヘ!? あの後、どうなったの!?」

「お、落ち着いてスウィート! そんなに一気に質問されても答えらんないって!」

 一気に質問されたことについて、シアオは返せないのでとりあえずスウィートを落ち着かせる。
 そしてスウィートが落ち着いたのを見て話し出す。

「えっと……僕は全然、大丈夫。このとおり回復したよ」

 顔の横でヒラヒラと両手を振って見せる。
 するとスウィートの顔が少しだけ和らいだ。シアオの顔も緩んだ。

 するといつの間にか近くに来ていたアルが発言した。

「スウィート、あと3つの問いに答えたいのは山々なんだが……ちょっと聞きたいことがある」

「聞きたいこと……?」

 スウィートが首を傾げる。一体、何のことについてなのか分からないからだ。アルは真剣な顔で問う。

「あの後って……スウィートにとっていつの事だ?」

「いつって……エムリットさんのサイコキネシスを喰らった後……かな。それがどうかしたの?」

「……じゃあ……エムリットの名前は知ってるか?」

「いや、知らないけど……」

 アルが眉間に皺を刻んで考え込む。
 スウィートは首を傾げた。何か問題でもあるのだろうか、と。するとシアオが口を開いた。

「サイコキネシスを喰らった後……スウィートはすぐに起きたんだ。さらにエムリットの名前まで当てたし」

「え…………?」

 シアオの言葉にスウィートは困惑する。
 自分の記憶と全く辻褄が合わないのだ。自分は確かにエムリットの攻撃を喰らって気絶し、そして起きたらギルドにいて……。
 そして記憶を探りながら暫く考えると

《ごめん、スウィート……》

(レンス? どうかした?)

 頭に声が響く。レンスの声を聞くと、謝罪の意がとれた。
 スウィートは首を傾げた。いったい全体、何があったのだと。

 レンスは数秒だけ黙ってからいった。

《スウィートが気絶してる間……ムーンがスウィートの体を借りてたんだ》

(………………へっ?)

 なかなか頭が反応しなかった。
 スウィートが気絶している間、ムーンが体を使っていた。つまり喋り方、性格などもムーンのもの。はっきりいってスウィートとムーンは全く似ていない。
 しかしそれでスウィートの体で喋ってたりしてたとすると

(すごい……違和感が…………)

《……本当にごめん。勝手にムーンが体借りちゃって》

 その事にようやく気付き、そして話の辻褄があわない理由も納得した。
 気付いたスウィートはすぐさま慌ててシアオ達にむかって話そうとしたが

「え、えと……その、えっと……」

 そして気付いた。どうやって説明をしようか、と。
 だがスウィートはまた考え込んだ。シアオ達は頭に疑問符をつけて首を傾げている。
 すると間合いをみてディラが言葉を発した。

「おい、お前達。とりあえず時の歯車≠フ件についてはもう一度、作戦を立て直す。今回のような事もあるようだし……とりあえず全員、今日は休め」

「シアオ、報告したの?」

「うん。とにかく部屋に戻ろっか」

 スウィートはシアオにズルズルと引きずられるように、部屋に戻る羽目になった。フォルテとアルもきちんとついて来ていた。
 部屋に戻ると、4匹とも自分のベットに座る。そして話の続きがフォルテの言葉によって再開された。

「で、スウィート……。話の辻褄があわないんだけど、何か心あたりがあるのかしら?」

「えっとね……。皆にはまだ話してなかった事……サファイアについてなのだけれど」

 スウィートがペンダントを手にとる。3匹の目はすぐにサファイアの方へ向いた。
 そしてスウィートは一回だけ深呼吸をしてから話し出す。

「皆……私が通常のイーブイでは使えないタイプの技や、皆が知らない技を使ったの知ってるよね?」

「あぁ……。ウェーズのとき、ゴルダック、あとグラードンのとき……。そして今回か」

「ライボルトのときもだけど。その理由が、このサファイアにあるんだ」

 スウィートは少しだけ考えてから、発言した。
 シアオやフォルテ、アルの注目はまだサファイアにあった。

「サファイアの中には7匹のポケモンがいるんだけど……。
 7匹の説明をすると……まずリーフィアのミング。ブラッキーのムーン。ブースターのフレア。シャワーズのアトラ。サンダースのレンス。エーフィのリアロ。そして最後にグレイシアのシクル」

 一気に言ったせいか、シアオは「え、え?」と言いながら困惑しているし、フォルテは「えーと……」と整理しようとしている。アルは「で?」と続きを促している。
 これは続きを話してもいいのだろうか。

 とりあえずスウィートは続きを言う。

「使えない技が使えたのはその7匹に力を貸してもらってたから。
 例えば……グラードンのとき。あのときはアトラに力を貸してもらってたから水の波動が使えたの。
 ただ……どうしてサファイアの中にいるのかは話してくれないから分からないの。あと人間の頃の私を知ってるみたいだけど……それも話せないんだって。話そうとすると激しい頭痛がするからって……」

 すると今度は誰も困惑をしたものがいなかった。
 よくこの説明で理解が出来るな、とスウィートは関心しながら言葉を発する。

「そして今回の事。私は気絶してたんだけど……その間にムーンが私の体を借りていたの。だから私は気絶した後の記憶はないよ」

「って事は……そのムーンってのがミュエムの名前を知ってたって事?」

「え?」

 フォルテの言葉にスウィートどういう事だ、と3匹に目を向ける。
 その目線にいち早く気付いたフォルテは、とりあえず事実を話した。

「そのムーンってポケモン……ミュエム、つまりエムリットの名前を言ったのよ。ミュエムの様子を見るからにあってたみたいだし……」

「……何で…………?」

 どうして、とスウィートがサファイアに目をむけた。
 それでも声が頭に響かないという事は、いえない、という事なのだろうか。

 スウィートは怪訝そうな顔をしてから3匹の方に再び目をむけた。

「何か……詳しい事情は聞けないみたい。話してくれそうないし…」

「まぁ、ならその点はおいておこう。じゃあその後の話をするか」

 スウィートはさっと真剣な顔つきになる。

 その後、つまり時の歯車♀ヨ連だろう。きちんと聞いておかなければ。そう思いながら耳を傾ける。
 そしてアルの言葉に――絶句することとなった。

「ムーンとやらはミュエムを倒すとすぐに倒れた。その後だ……ジュプトルが現れた」

「!!」

「そしてジュプトルに…………


               時の歯車≠盗まれた」

「え…………」

 頭が真っ白になった。つまり時の歯車≠また盗ませてしまったという事。スウィートは目を見開いていた。
 そしてすぐに顔を俯かせ暗くさせた。

「そう…………」

「…………ね、とにかく今日は寝よう? 皆、疲れたでしょ」

 シアオが場の空気を少しでも変えようと言葉を発する。
 すると全員がその言葉に静かに頷き、ベッドに横になった。

 スウィートは目を瞑ってムーン達、時の歯車=Aジュプトルについて考えた。
 自分の納得する答えには、一向に辿り着かない。

 すると数分後に寝ていると思った者が、静粛した場で発言した。

「……あの、もしも誰か起きてたらさ、僕の独り言だと思って聞いて?」

(シアオ……?)

 スウィートは目をうっすら開いてシアオを視界に移す。
 背を向けられているのでどんな表情をしているかは分からない。シアオはそのまま続けた。

「僕さ……時の歯車≠ェ盗まれたとき、時が停止するところを見て思ったんだ。時が停止するとなんかさ……寂しい世界だな、って。
 色はどんどん無くなって、自然がおこす音さえもしない……。今まで時が停止したら、なんて考えたことなかったから、現実で見て驚いた。ホントに寂しい世界だ、って思った」

(…………)

 スウィートは黙って聞く。
 シアオの声はどんどん苦しげなものになっているのが分かったから。そして目を瞑って聞くことにした。

「時の歯車≠盗ませちゃいけない。そんなの最初は軽く考えてた。だって別にあまり実感がなかったし、それによく分からなかったから。皆が大騒ぎしている意味も含めて。
 でもさ……今日、現実で見てみて、やっと事の重大さに気付いたんだ。やっと……皆が大騒ぎしている意味に気付いたんだ。それは本当に遅すぎたけど。
 だから僕、ちゃんと決心したよ。もう……あんな寂しい世界をつくっちゃ駄目だって。だからジュプトルは絶対に捕まえなきゃって思う。これ以上、時の歯車≠盗ませないように……」

 するとシアオの言葉が途切れた。
 もう一度目を開けて見てみると、寝ていることが分かった。

 スウィートはそんなシアオに小さく微笑んだ。そしてまた目を閉じる。

(時が止まった世界……。私は見てないから分からないけれど……きっとシアオが言ったとおり、寂しい世界なんだろうな……)

 スウィートは時が止まってしまった世界を必死に想像した。
 想像したものできちんとあっているかは分からないが、スウィートも寂しいと思った。

 そうしているうちに、スウィートの意識はブラックアウトしていた。




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