流砂の洞窟

 『シリウス』と『アズリー』がギルドに帰ると弟子達は全員そろっていた。ディラは6匹が帰ってきたことを把握すると話を始めた。

「全員が揃ったところで……報告をしてもらう」

 そう言うとディラはまず、と言ってラドンとイトロの方を向いた。どうやら彼等が最初に報告をするようだ。

「“東の森”はただ森が広がってるだけで、特に何も無かった」

「そうか……。では次、“水晶の洞窟”は?」

「“水晶の洞窟”は水晶がたくさんあって綺麗だったゲス。あっし、つい1つだけとってきちゃいました」

「い、いつの間に……」

 レニウムが綺麗に輝く水晶を取り出したのを見て、フィタンが驚いたような顔をしていた。
 レニウムは嬉しそうにしている。だが、それを見てイラッときたポケモンがいた。

「ちょっと! なんでそんな関係ない物を取ってきてるわけ!? 真面目に探してるポケモンに失礼だと思わないわけ!?」

 フォルテだった。我慢できなかったようで声を荒らげる。
 そういう行動は許せないようだ。ただシアオに隠れながら言っているので迫力は半減だが。理由はまぁ、簡単だ。ゼクトがいるからである。
 するとその言葉に加勢したポケモンがいた。

「私もフォルテ先輩に意見に同感です。関係ない行為は控えるべきかと」

 淡々と述べたのは凛音だった。そしてギルドの空気がとても気まずくなった。

 そんな空気の中――

「ええっと……その、レニウム先輩は探してなかったわけじゃないし、1つだけ水晶を取ってきちゃっただけだし、ね? だから落ち着こう? それに今は喧嘩してる場合じゃないし……」

 宥めるように言ったのは、どこか控えめなスウィートだった。
 あんな空気の中で発言できるとは、とても肝が備わっている。言葉を聞いてフォルテと凛音はまだ不満そうだったが、すぐに黙った。

「スウィートの言うとおり、今は喧嘩をしてる場合じゃない。で、時の歯車≠ヘ結局あったのか?」

 ディラがすぐに問う。ようやく場の空気が少しだけ和やかになり、全員がホッとした。

「……時の歯車≠ヘ残念ながらなかったですわ」

「えぇぇぇぇぇえぇ!? じゃあ全滅ってこと!?」

 ルチルが静かに言った後に、シアオがとても大きな声で脅威の声をあげた。
 『シリウス』、『アズリー』は分かっていたが、他の弟子達は「え」と言う顔をした。

「シアオの発言を聞くと……“北の砂漠”も無かったという事か……」

「無かったです……。ただ流砂があっただけでした」

 メフィががっくり肩を落としながら言った。弟子達も肩を落としている。
 凄い意気込みで捜索をしていたのに、全滅となると流石に落ち込むのもしょうがないだろう。

「すみません……。私の力不足です」

「い、いえいえ! ゼクトさんが悪いわけじゃありませんし! それにゼクトさんがいたからこの作戦はたてられたんですよ!?」

 謝ったゼクトにディラがすかさずフォローしようとする。
 確かにディラの言うとおり、ゼクトは全く悪くない。他の弟子達もそれに続いてわーわーと騒ぎ出した。
 スウィートはその光景に苦笑した。

「とにかく! 時の歯車の場所はもう一回、親方様とゼクトさんと話し合う! 今日はもう休むことだ!」

 ディラのその一言で、今日の活動は終了となった。
 スウィートはまた心にモヤモヤを残して。





―――翌日―――

「……今日のことなんだが、まだ時の歯車≠ェある場所の目星がつかない。なので各自で行動してくれ」

 ディラが淡々と述べる。
 つまり今日は自分達で時の歯車≠フ場所を考え探しに行け、という事なのだろう。

「どーする? 僕達も探すところないけど」

「ま、時の歯車≠探せっていわれても場所がわかんないしー」

「いや、分かってたらいってるっつーの」

 シアオが全員に首を傾げながら問い、アルがフォルテの言い分にツッコむ。
 スウィートはボケーッとその光景を見ていた。

(“北の砂漠”……。何か引っかかる)

「ねぇ、皆……今日、また“北の砂漠”に行ってみない?」

「「「は(え)!?」」」

 スウィートは無意識のうちに思っていたことを言っていた。
 シアオ達は驚いたように声をあげる。だがここで引き下がるわけにもいかない。

「“北の砂漠”にはまだ何かある気がするの……。だからお願い!!」

 スウィートが頭を下げたことにより、3匹が驚いてあたふたし始めた。
 当たり前だ。そんな事で頭を下げられても……一体どうしろと、そんな思考が3匹の頭を占めた。しかしスウィートはそんなことに気付いていない。

「わ、分かった! 分かったから! 行くから!」

「ま、まず頭を上げましょう!?」

「頭は下げなくていい!」

 順番にシアオ、フォルテ、アルで頭を未だ下げていた彼女に声をかける。
 するとようやくスウィートも頭をあげた。ホッと息をつく。

「じゃあ……行ってみようか。“北の砂漠”に」







――――北の砂漠 奥地――――

「やっぱり流砂しかなくない?」

 シアオがポツリと呟く。目の前に広がっているのは昨日と同様、流砂が広がっているだけだ。
 フォルテもアルも頷く。

(まず……“霧の湖”の時の歯車≠ノついて考えると……普通は湖があるとは考えにくい場所に隠されていた。つまり……時の歯車≠ヘそういう普通ではない所に隠されてるはず……)

「で……あたし達、どうすんの?」

「……スウィート、何かあるのか?」

「ごめん、ちょっと考えさせて。頭の中で整理しているから」

 フォルテやアルには悪いと思いつつも、スウィートは頭の中で考える。
 時の歯車≠ノついての自分が知っているだけの情報を。

〈時の歯車≠ヘ見つからないように森や洞窟に隠されているらしいからな〉

(つまり簡単には見つからない……。そして流砂しかない場所……)

 スウィートはまさか、と仮説をたてる。
 そして流砂を見た。特に何もないただの流砂だ。それをスウィートはジッと見てから、シアオ達の方に振り返った。

「私……あの流砂の中に入ってみようと思う」

「え!? あ、危ないよ!」
「む、無茶よ!!」
「そんなの危険だ! やめろ!」

 スウィートの言葉に3匹がやめろ、と声をかける。
 確かに今回は無事という確証も、時空の叫び≠セっておきてない。無謀に決まっている。下手したら、死ぬ。
 スウィートは頑としてやめるとは言わなかった。

「私が1匹で行くから。皆はここで待ってて」

 スウィートは行く気満々だ。流砂を見据え、深呼吸をしている。
 幾ら言っても無駄だ。スウィートは結構な頑固者なのだから。

「ぼ、僕も行くよ! スウィート1匹だけで危険な事させるのもどうかと思うし……」

「あたしも行くわ! ね、アル?」

「はぁ……分かったよ。参った。俺も行く」

「え…………」

 まさか全員が行くと言うとは思っていなかったスウィートは目を見開いている。
 そうとなればスウィートの事を気にせず、シアオとフォルテも深呼吸をしている。何故。一体、何故こうなった。

「スウィート、行くんだろ?」

 あそこの中に、とアルが流砂を指さす。
 スウィートはポカンとなってから急いで位置についた。3匹とも行く気満々。そんな3匹の様子を見ながらスウィートは恐る恐る言葉を発する。

「あの……ホントに待っててく」

「却下」

 フォルテがニッコリとしながらスウィートに言った。
 スウィートは表情を引きつらせ、ようやく3匹もなかなか意思を曲げないことに気付く。結局みんな眼光なのだ。
 自分は危ない事には関わらせたくはないのだが……無駄なようだ。

「じゃ、ここはリーダーのスウィートが「せーの」で行こう」

「え、ちょ」

「オッケー」

「了解」

 なんかシアオの一言で決まってしまった。フォルテとアルも頷いているし。
 「あぁ、もう」とスウィートは半ばヤケクソで言った。

「行くよ……。せーのっ!!」

 『シリウス』が一気に流砂の中に駆け込んだ。







「ひゃっ!!」
「うわぁっ!!」
「きゃっ!!」
「っ……!!」

 スウィート達は流砂の中に入ってからすぐに何処かに落ちた。どすんっという大きな、痛そうな音をたてながら。
 スウィートは思いきり体を打ちつけたようで、「いたた……」と打ち付けた部分を撫でる。
 そのすぐ隣では――

「フォルテ、アル、早く退いてよ! 重い、つぶれる!」

「フォルテが退かないと俺も退かないんだよ。早く降りろ、動けない」

「ちょっとシアオ! また重いって言ったわね!?」

 シアオが1番下に、そしてアル、フォルテというように乗っかって段になっていた。今回はシアオとフォルテだけではなく、アルも巻き込まれたらしい。
 スウィートはようやく体を起こし、3匹に気付いた。

「フォルテ、とりあえず降りてあげて?」

「……分かったわよ」

 スウィートがやんわりと言うと、すぐにフォルテは降りた。
 それに続きアルもすぐに降り、ようやくシアオが起き上がる。いつも災難な事だ。それで怪我がないのだから、強運なのか不運なのか。

「あたた……。ここ、流砂の下かな?」

 シアオが体を起こし、上を見上げる。上からは砂がパラパラと落ちてきている。スウィート達の足元には砂が広がっていた。

「みたいね……。洞窟に繋がっていたなんて、考えもしなかったわ」

「スウィート、お手柄だな」

 フォルテとアルが関心の声をあげる。スウィートは苦笑いで返しておいた。
 まだ此処に時の歯車≠ェあるとは限らない。それを調べるまでお手柄とはいえない、と思っているのがスウィートだ。

「じゃあ奥に行こう。時の歯車≠ェあるかどうか調べなくちゃ」

 スウィートの言葉を合図に、『シリウス』は奥へと進んでいく。






――――流砂の洞窟――――

「いったーーー! 砂が目に入った!」

「いちいち煩いわね! ――っ痛い! あーもう腹立つー!!」

 さっきから騒いでいるのはシアオとフォルテだ。
 流砂の洞窟の中は砂嵐状態で、目に砂が入ったり体にでかい石が当たったりで2匹が騒いでいる。

「確かに……砂嵐は厄介だよね」

「おい、敵ポケモン来たぞ」

 アルの知らせでスウィートは顔をそちらに向ける。
 そこにはサンドパンとクチート。砂嵐のせいで凄い見えずらい。サンドパンは特性、砂がくれなので仕方ないが。

「私が砂嵐をちょっと払うから、すぐに攻撃してね」

「うー……了解。まだ目が痛い……」

「分かったわ。じゃあクチート狙う」

「了解」

 シアオは危ういが、フォルテとアルは攻撃してくれるだろう。
 未だ目を擦っているシアオを見てスウィートが苦笑してしまったのは仕方ない。

「じゃあいくよ…………。しんくうぎりッ!!」

 スウィートが技名を言って発動させた。しんくうぎりのおかげで少しの砂が払われ、視やすくなる。
 3匹は素早く動いて敵ポケモンに近づいた。
 サンドパンにはアルとシアオ、クチートはフォルテだけ。

「アイアンテール!」

「はっけい!」

「火炎放射!」

 すぐに技を放ち、相手をダウンさせる。
 サンドパンは2匹同時攻撃のため、クチートは効果抜群の技のためすぐに倒れた。そして砂嵐はまた酷くなる。

「うわ……。また……って痛いーーーー!」

「バシバシ当たってくるんだけど!?」

「しょうがないだろ……」

「ハハハ……」

 やはり苦笑いだけしか出来ないスウィートであった。







――――流砂の洞窟 奥地――――

 更に『シリウス』が奥に足を運ぶと、ようやく奥地と思われる場所に出た。
 スウィート達はそこで辺りを見渡し、絶句した。

「流砂の下の洞窟の中に…………湖があるなんて……」

 スウィートが呟いたとおり、大きな湖が広がっていた。
 『シリウス』は場所が遠くて時の歯車≠ェあるかどうかが分からないのでゆっくりと湖に近づく。
 だんだん近づいていくにつれ、見えてきたのは“霧の湖”と同じ光。スウィートはしっかりと見た。

「あ、あった……! 時の歯車=I!」

 緑色の淡い光に包まれている小さな歯車。“霧の湖”で見た物と全く一緒だ。あれが時の歯車≠セろう。
 それは湖の中心に浮かんでいた。

「何というか……“霧の湖”みたいに時の歯車≠ヘ湖にあるもんだね……」

 シアオがしみじみと関心したように呟く。すると

『――アンタ達! 時の歯車≠盗みに来たのね!?』

「「「「!?」」」」

 どこからか声がした。4匹は驚いて辺りを見渡す。だが4匹以外にポケモンはいない。スウィートは首を傾げた。
 何処にもいないのに困惑しながらシアオは大声で言う。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕らは時の歯車≠盗むつもりで来た訳じゃ――」

『嘘をつくな! 私は知ってるんだよ! “霧の湖”の時の歯車≠ェ盗まれたことを!』

「いや、それは僕達じゃなくて……!」

 シアオが声に対して一生懸命に説得を試みるが……効果は全くといって良いほどない。まずシアオの言葉をほぼ聞いていないようなものだ。
 するとスウィート達の前に光が集まり、ポケモンが現れた。姿形はヒュユンに似ている。

「私は感情の神、エムリット! 此処の、“地底の湖”の番人! 覚悟しなさい!」

 どうやら本気で勘違いしているようだ。
 攻撃態勢に入っているエムリットを見ながら、スウィートは態勢を整える。

「ちょ、ちょっと待ってって! ホントに僕たちじゃ――」

「お尋ね者と話す気はこれっぽっちもない! 此処の時の歯車≠ヘ盗ませない! 盗んだ時の歯車≠熨S部返してもらうわ!」

 シアオの説得も虚しく、その言葉で『シリウス』とエムリットの戦闘が開始された。




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