遠征の助っ人

 真っ白い空間。辺りは全て、白。そこから話し声が聞こえた。

「ようやく戻ってきましたわね。まぁまだ完全には戻ってきてはいませんけれど」

 高いソプラノの声が呟く。声はどこか嬉しそうだった。
 するとその声に続くように

「けどもう2匹も失敗してる……。どういう事」

 先ほどの声とは違う、とても鋭い凛とした少女の声が聞こえた。
 少女の声には怒りが少しばかり含まれている。明らかに不機嫌なことは誰にでも伝わった。

「しょうがないだろ。時間が早いし」

「あらあら。言い訳なんて珍しいわねぇ」

 ふてくされている少年の声に反応したのは、先程と違う大人びているのんびりとした女性の声だった。女性はクスクスと笑っている。

「仕方なかろう。まだ完全に戻っていない。もっとも……貴様らには分からんだろうが」

「あぁ!? 喧嘩売ってんのか、お前は!? いい度胸してんじゃねえか!」
「貴方に同感したくありませんが同感ですわ!! 少し無礼じゃなくって!?」

 少し古風な感じの青年のような声に反応したのは、1番始めに喋ったソプラノの声と、気の強い少年の声。
 静かだった空間が煩くなる。そこに

「お前ら、やめんか。言い合いしても仕方ないじゃろう。気ままに回復するのを持つしかないのじゃ。分かったか、若者達よ」

 年寄りみたいな口調で話す女性の声で、煩くなった空間がまたもや静かになった。
 女性はふうぅ……と息をついてから

「……当分出られんだろうがのう」

 そういうと、また息をついた。その息だけが、真っ白い空間に響いた。





「何やってるの?」

「ッ!?」

 朝、太陽が昇るのを見たスウィートが部屋でゴソゴソと何かしていると、不意に後ろから声がかかった。
 スウィートは驚いて体を揺らしてから、後ろを振り返る。

「シ、シアオ……。おはよう」

「おはよう〜。ふぁぁ……」

 珍しくアルよりも早く起きていたシアオにスウィートは戸惑ったが、一応挨拶はしておく。
 スウィートはバッグに作業していたものを隠して、シアオの方を改めて見た。

「早いね?」

「なんか目が覚めちゃったんだよね〜」

 シアオがアハハ……といって笑う。スウィートもつられて笑った。
 するとシアオの後ろからムクリと何かが起きた。スウィートはそちらに目をやる。

「アル、おはよ」

「……ん? あぁ、おはよう」

「おっはよーーーー!!」

「うおっ!?」

 スウィートが挨拶すつとアルはいつもどおりに返したのだが、シアオに元気よく挨拶されると思い切り声をあげた。
 シアオはアルの反応に少々驚いたようだ。

「シアオが俺より早く起きてる……!?」

「ちょ……何気に酷くない? そこはスウィートみたいに「早いね」って言おうよ」

「天変地異の前ぶれかもな……」

「アル!? それ嫌味!? それは僕に対しての嫌味だよね!?」

 2匹のやりとりにスウィートは苦笑した。
 アルの言葉にシアオが何かツッコミをいれているのはよくあることなので見慣れている。まぁアルがシアオにツッコミをいれる事の方が多いのだが。

 見慣れている光景を見て「今日も平和だなぁ」などと考えているスウィートだった。





「今日は皆に新しい仲間を紹介するぞ♪」

「なんだ? また弟子入りか?」
「どんなポケモンなんゲスかね?」

 今日の朝礼、少し違った。ディラの言葉に皆ざわつく。
 フォルテはいつものように欠伸をかき、アルはシアオの話に付き合っている。スウィートは、何故か嫌な予感がした。

(何か嫌な予感が……)

 スウィートがそんな事を考えていると、梯子の方からとてつもない悪臭がしてきた。
 弟子達一同、鼻をおさえる。

「く、臭いっ……!!」
「だからあっしがしたわけじゃ……!」
「だから聞いてねぇっつうの! ヘイヘイ!!」

 新しい仲間の事でざわつけば、次は臭さでざわつく。
 フォルテは顔を思いっきり顰めた。アルとスウィートも嫌な予感しかしなく、顔を顰めていた。シアオは他の弟子達同様、臭さで騒いでいる。

「ではこちらにどうぞ♪」

 ディラがそう言うと梯子から、『ドクローズ』が降りてきた。

(嘘っ……!?)

 スウィートの嫌な予感が見事に当たった。
 新しい仲間が『ドクローズ』かもしれない、という最悪な予感が。

「ズバットのホルクス・スリンガだ。ヘヘッ」

「ケッ、俺はドガースのギロウ・ヴィリチだ」

「『ドクロース』のリーダー、スカタンクのウェズン・スディームだ。覚えといてもらおう。とくにお前らにはな」

 そういってスウィート達の方を見た。スウィートはあまりその目線に反応はしなかった
 が、フォルテは凄い形相で睨みつけ、アルも不満オーラが滲み出ていた。それは先輩達もだった。

(臭い……。こんなポケモン達と一緒に遠征なんて……)
(というかディラと親方様は匂わないのか? 臭くないのか?)
(親方様は寝てるから匂わないんだろ。)
(というか……フォルテさんから凄い殺気が……)

「新しい仲間といっても遠征までだ♪助っ人として遠征に参加してもらう。いきなり息をあわせて協力しろ、と言われても無理だと思うから数日間はギルドにいてもらう♪皆、仲良く――」

「できるかぁぁぁぁぁああ!! そんな奴らと仲良くしろですって!? 死んでも嫌だわ! 虫唾がはしるわ! 何で朝からこんなに臭いのを匂わなきゃならない訳!? 朝からサイッコーに不機嫌よ!
 つか昨日はよくもやってくれたがったわね、空気の汚染物こと悪臭ごみ以下野郎が!」

「フォ、フォルテ! 落ち着いて……」

 ディラの言葉を遮り大声をあげたフォルテをスウィートが宥めようとする。
 が、無意味だった。アルは思いっきり大きなため息をつき、シアオはオドオドしていた。

「し、知り合い……だったのか……?」

 流石にディラもフォルテの迫力に押し負けたようだ。たじたじになっているのがよく分かる。フォルテの失礼な言葉にツッコミこともできないようだ。
 フォルテは鋭く『ドクローズ』を睨みつける。
 そのとき、条件反射のようにホルクスとギロウがビクリと体を震わせたのはスウィートとアルと、『ドクローズ』のリーダーしかしらない。

「あいつらとは少し喧嘩してしまいましてね……。一方的にこっちが悪かったんで遠征の間に仲直りをしようとおもってたんですよ」

 その一言を聞くとスウィートは軽くスカタンク、ウェズンを睨んだ。
 あちらが仲直りなどする気がある訳がない。邪魔はしてくるかもしれないが。

「誰が仲直りなんてするモンですか! 嘘ついてんじゃないわよ!! 言っとくけどあたしはアンタらをぜぇったいに許さないから! 遠征に来るな、この害虫もどき!
 隙ついてアンタらの命ねらってや――いたっ!!」

「すみません、お構いなく」

 発言がエスカレートしていくので、アルがフォルテの頭を叩いて黙らせた。
 フォルテはアルをキッと睨んだが、アルは顎で「前向け」と合図する。フォルテは渋々前をむいた。

「え、エート……とりあえず仲良くな。それじゃ、仕事にかかるよ♪」

「「「「「「おぉぉぉぉー……」」」」」」

 今日はとても声が小さかった。
 その事に気がついたディラが首をかしげ、怪訝そうな顔をする。

「どうしたの? 元気ないな? というか……お前達、今日は何だか変だぞ?」

「当たり前だろ! こんなに臭いのに――」

「たぁぁぁ……」

「「「「「「!」」」」」」

 ラドンがディラに反論しようとした瞬間、ロードの口から声が漏れる。
 瞬間、ディラは思いっきり顔をひきつらせた。
 それと同時にロードの声は大きくなっていき、ギルドが揺れ始める。

(親方様の声に反応しているの!?)

 スウィートが揺れているギルドを見渡してから、ロードの目を向ける。顔は悲しそうで、声は少しずつだが大きくなっていく。

「み、皆! 無理やりにでも声を出すんだ! 仕事にかかるよ!!!」

「「「「「「「お、おぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!!」」」」」」

 ディラの慌てように、弟子達は渾身の力を振り絞って声をだすと、地響きが止まる。ロードは声を出すのをやめ、いつもどおり部屋に入っていった。
 弟子達はホッと息をついてからいつもの仕事場についた。

((((何だったんだろう…………))))

 訳の分からない4匹を残して。
 とりあえず4匹は疑問を抱きつつも、依頼を選びに行った。

 因みに――今回の依頼を成功させるとランクが「ノーマルランク」から「ブロンズランク」にあがったとか……。





その夜――

「アニキ〜。腹減りやした。」

「確かにあんな食事じゃ足りないですよね〜」

 ホルクスとギロウが愚痴を言う。確かにホルクスとギロウの腹の音がなった。

「ギルドの奴らも寝たわけだし……食料庫行くぞ」

「へっ? なんでですか?」

「馬鹿か。食料を盗みに行くんだよ。」

 ウェズンの言葉を聞き、少し呆然としたホルクスとギロウだったが、すぐにパァッと顔を明るくさせた。

「行きましょう、行きましょう!!」

「飯だ、飯だーー!!」

「お前ら静かにしろ。バレるだろうが。」

 そう言って『ドクローズ』はギルドの食料庫に向かっていった。




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