理解不能


「クレディア! 御月! 急ご!!」

「あいあいさー!!」

「クレディア、口を動かす前に足を動かしやがれ」

 フールが先頭でニコニコしながら小走りで前を進む。それにクレディアと御月がついて行っているという感じだ。
 クレディアはそこまで早く走れないのでゆっくりだが、御月はそれにあわせている。フールは小走りではあるが、時折止まっては2匹の様子を伺っていた。

「家だー! イエーイ!!」

「いえーい!」

「お前ら本当に元気だよな……」

 あまりの2匹のテンションの高さに御月は疲れている様子だ。その疲れさせている2匹は気付いていないようだが。
 ついでにクレディアは不思議玉を手に持ち、掲げていた。もう行動の意味が分からない。御月はそんなことを思いながら小さくため息をついた。
 そして宿場町まで着くと、よしっ、と言ってフールがクレディアと御月の方に振り返った。

「ヴィゴはきっと食堂にいると思うし……あっ、御月はどうすんの?」

「あ? あぁ、俺は……」

 御月が言おうとした時だった。

「わっ!?」

「いたっ!?」

 ドンッとフールに1匹のポケモンがぶつかる。
 フールは「いったた……」とそのポケモンの方を見る。そのポケモンはズルックで、何やら慌てていた。

「す、すみません! ちょっと慌てていたもので……!! しっ、失礼します!!」

 そのまま嵐のようにズルックは宿場町を出て行く。とても速く、クレディアとフールは咄嗟に反応できなかった。
 しかし、御月は違った。

「あれか……!!」

 小さく呟き、そのズルックを追いかけようとする。しかし

「はにゃっ!?」

「は――ぐえっ!!」

 クレディアが持っていた玉がちょうど転げ落ち、そして御月がその玉によって見事に転んだ。
 その場に沈黙。そしてクレディアが御月に話しかける。

「み、みっくんゴメンね! 大丈夫!?」

「ぜんっ……ぜん大丈夫じゃねぇ……! つーか何で不思議玉なんて手に持ってんだ! ダンジョンでもあるまいし!!」

 バッと勢いよく起き上がり、御月がクレディアにツッコむ。
 クレディアは数秒だけ不思議玉を見つめてから、ニッコリと微笑んだ。

「綺麗だったからつい!」

「あぁそうか。って納得できねぇよ!!」

 どれだけ鋭いツッコミを貰おうが、クレディアは動じない。ニコニコとしているだけである。因みにその笑顔は純真なものだ。
 するとキリがないと分かったのか、フールが2匹に話しかけた。

「とりあえずさー、食堂いかない? 確かにさっきのはビックリしたけど……」

「げっ……逃がした……」

 チッ、と御月が舌打ちする。その意味はクレディアとフールには分からない。
 クレディアはズルックが去った方を見て、そしてフールを見てから、御月に問いかけた。

「それで、みっくんは結局どうするの?」

「……一応、食堂についていく」

 そう、とフールが返事をして食堂に向かう。
 その間、御月がチラリとズルックが去った方を見ていたのは、誰も気付かなかった。





 食堂に入ると、やはりヴィゴがいた。そしてその少し近くでマハトとポデルが談笑している。
 因みに食堂に入ったのはクレディアとフールだけだ。御月は「外にいる」と言って食堂の外だ。別に強制する理由はないので、2匹は気にしなかった。

 2匹が食堂に入ると、真っ先にヴィゴが気付いたようで、話しかけてきた。それにマハトとポデルも反応し、2匹の方を見た。

「おっ、取ってきたか?」

「うん!」

「よし、じゃあ約束どおり家を建ててやろう。とりあえず石を見せてくれ」

「了解!」

 フールが元気よく返事をし、鞄を探る。クレディアはすることがなく、ただそこら辺を見ていた。
 しかし、フールの一言によってクレディアは彼女を見ることになる。

「あれ? な、なんで!?」

 フールがせわしなく鞄を探り始めた。その様子がおかしい、と気付いたクレディアはフールに声をかけた。

「フーちゃん? どうかしたの?」

 クレディアがそう聞くと、フールが鞄を探っていた手を止めてポツリと、絶望的といったような顔をして呟いた。

「石が、ない……」

 へ、とクレディアがきょとんとする。
 しかしフールはそんなクレディアを関係ないといったように、鞄をまた漁りはじめた。

「な、何で!? 確かにちゃんと取ってきたのに……!!」

 フールがそう言いながら探すが、水色の石はない。
 クレディアもどうにかしようと自分ができることを探していると、いきなりヴィゴが「ドゥワハハハハ!」と笑い出した。クレディアもフールもそちらを見る。

「何だ、石を取ってきてねぇのか! それじゃあ家は建ててやれねぇな!」

 その言葉にクレディアとフールが慌てる。
 どうにか何か言おうと口を開き閉じを繰り返しているフールの代わりに、クレディアがヴィゴに言う。

「本当に取ってきたの! 私、ちゃんとフーちゃんが石を取るところ見たもん!」

「でも今渡すことは出来ねえんだろ?」

「うっ……」

 クレディアがヴィゴの言葉に怯む。まさにその通りだからである。
 そしてあからさまに落ち込み出すクレディアに、「まあ」とヴィゴが話しかけた。

「また取ってくればいいだけの話だ。頑張ってくれ」

「そんな……えー……あー……」

 クレディアが訳の分からない言葉を発していると、フールが「……わかった」と言ってクレディアを引っ張り食堂を出た。クレディアはされるがままで。

 そして食堂を出ると、御月が「どうだった?」と聞いてきた。フールは納得がいかないといった顔で結果を報告する。

「取ってきたはずの石がなくて……また、取ってくる羽目になっちゃった……」

「私がずっと後ろ歩いてたから落としてもわかるはずなのに……みっくんも落としたところ、見てないよね?」

「落としてたらフールの頭にでも投げつけたわ」

「ちょっ、何てこと言うのよ!」

 ギャーギャーとフールと御月が騒ぎ出す。クレディアはうーん、と考え込んでいる様子だ。
 しかしクレディアはすぐに顔をあげ、フールに話しかけた。

「でも家を建ててもらわなきゃ困るし……もう1回とりにいこう?」

「……うん。納得いかないけど」

「…………。」

 クレディアの言葉にフールが渋々といった感じで頷き、御月は辺りを少し見てから「とにかく十字路に行くぞ」と言った。
 そんな御月をクレディアが怪訝そうな顔をして見る。

「みっくん、付いてきてくれるの?」

「あー……まあな」

「おぉ、案外頼りになるね」

「お前よりかはな」

「君は私に喧嘩うってんの?」

 フールが御月を睨むが、御月はそ知らぬ顔をした。
 そんな2匹の少し険悪な雰囲気に気付いていないのか、クレディアは「よし、いこー!」と歩いていく。そんなクレディアを見て喧嘩する気もうせたのか、フールと御月はため息をついた。
 そして宿場町の出入り口の近くまでくると、クレディアが「あれ?」と声をあげた。

「あのポケモンって……」

 そのポケモンは、先ほどフールにぶつかったズルック。ズルックはクレディア達には気付かず、十字路の方まで早足で去ってしまった。
 それを見て御月は「チッ」と小さく舌打ちした。そして駆け出そうとする。

「おい、ぶつかった時に落としたかもしれねぇし、あいつに聞いてみるぞ!」

「え? あ、あぁ、うん!」

「ふえ?」

 呆然としていたフールだが、意味を理解したのかクレディアの手を引っ張る。クレディアは全く理解していないようで、未だ呆然としているが。
 そんな3匹を「待ってください!」という声が引きとめた。
 何事だ、と3匹が止まって後ろを見る。そこにはマハトとポデル。

「マハトにポデルじゃん。えっと……でも、ごめん。私たち、今急いでいるの!」

「……分かっています。ズルッグの……ヴェストの後を追うんでしょう?」

 それを聞いて、クレディアとフールが驚いた表情をした。御月は驚いた様子もなく2匹を見ている。
 フールは宿場町の出入り口方向を見て、そしてまた2匹に視線を戻した。

「あのズルッグ……ヴェストっていうの?」

「あぁ。奴の行く先なら……俺たち、知ってるんだ」

「「えっ!?」」

 クレディアとフールがまた驚いた表情をする。御月はやはり驚いていないらしい。
 マハトとポデルは俯きぎみで、いい顔をしていない。そして声も小さく、言うのを躊躇っているように思える。
 すると何も喋らなかった御月が口を開いた。

「で? その場所は?」

「……“カゲロウ峠”、です」

「あっそ。やっと口を割る気にでもなったか?」

 御月の言葉に2匹は表情を暗くする。クレディアは何か知っているような口ぶりな御月を見るが、御月の視線はマハトとポデルに真っ直ぐ向かっている。
 そして躊躇っていたマハトが、声を発した。

「アンタ達……じゃなかった。貴女方に見込んでお願いだ。どうかヴェストを追って……貴女方の盗まれたもの……水色の石を取り返してきてくれ!」

「はぁっ!?」

「ぬ、盗み……?」

 驚きを隠せないといったようなフールと、イマイチ理解できていないクレディア。
 マハトとポデルは続けた。

「貴女方が食堂に入る前……ヴェストがフールさんにぶつかったときです」

「ヴェストはそのときに、水色の石を盗んだんだ」

 2匹が言う事実に、フールは驚きを全く隠せていない。御月はやはり何か知っているのか、驚いた様子を見せない。
 そんな中、クレディアが首を傾げて2匹に尋ねた。

「どうして……マーくんとデルくんはそのことを知っているの?」

 するとマハトとポデルは互いの顔を見合わせた。そしてクレディア達の方を向くが、動揺しているようで、口を開いては閉じを繰り返した。

「そ、それは……」

「……ス、スマン! 勘弁してくれ!」

「えぇ!? ちょ、ちょっと! ちょっとーーーー!?」

「おい、フールやめとけ。どうせアイツら何も言わない」

 去ってしまったマハト達を追いかけようとするフールを御月が引き止める。クレディアは未だ首を傾げていた。
 フールは納得いかないような顔をし、御月はため息をついて2匹に話しかけた。

「とりあえず、ズルッグ……ヴェストの居所は分かった。それにお前らも聞いたろ? 「ヴェストが水色の石を盗んだ」って。とりあえず“カゲロウ峠”にいくぞ」

「うーん……。何か私、まだ色々と納得いかないんだけど」

「あの一瞬で盗んだってこと、なのかな? それって……可能、なの?」

「盗みの技術でもムダに高めてりゃ不可能じゃねえだろ。普通じゃ無理かもしれないが、可能かどうか聞かれると可能だ」

 御月の答えに「ふえぇ……」とクレディアが関心したように声をあげる。関心するのはどうかと思うが。
 フールは「でも」と未だ合点がいかないといった顔をしながらも言った。

「マハト達が嘘をついているようには見えなかったし……とりあえず、追いかけるしかないのかな」

「決まったらとっとと行くぞ。逃げられちまう」

 御月がフール達を急かす。フールはそんな御月をじとーとした目で見た。

「ねえ。さっきから君も謎なんだけど。御月、君は絶対に何か知ってるでしょ?」

「……さあな。ま、どうせ“カゲロウ峠”に行きゃ全部わかる。“カゲロウ峠”も十字路から行ける。どうすんだ?」

「もちろん行くよ。盗まれたまんまってのも、このまま納得がいかないのも嫌だし。いいよね? クレディア」

「うん! マーくんとデルくんに「取り返してきて」ってお願いされちゃったし」

 そういって笑うクレディアに、フールは「クレディアらしいなぁ」と感想をこぼした。御月に至ってはため息だが。
 そんなこんなで、3匹は十字路から“カゲロウ峠”を目指した。



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