××と一緒
「あれ?」
はっとして名前は周りを見渡す。美術館だった。人はいるが、皆美術品を見るのに集中してキョロキョロ見渡す名前のことを気に留める人はいなかった。
(なんでここにいるんだろう)
名前は不思議だった。けど思い返すうちに家族で展覧会を見に来たこと、家族と別れて一人で回っていたことを思い出した。きっと絵画を見ているうちにぼんやりしてたのかもしれない。名前は結論付けて、もう少し回ってから家族のところに帰ろうと思った。そんな時名前を呼ばれた。
「名前こんなところにいたのか」
名前を呼ばれて振り替えれば黒髪の男がいた。知らないはずなのにどこか見覚えがあるような気もして名前は変な気分になって首を傾げる。
「俺と回るって言いながら先に行く奴がいるか…名前?」
男はつらつら言っていたが名前の様子がおかしいことに気づいたらしい。男が名前の顔を見る。
「どうした名前。具合が悪いのか?」
(どうしよう)
何と答えればいいのか名前は悩んだ。黙ったままでいると今度は名前の母がやって来た。
「司郎、名前どうしたの?」
「名前が具合悪いみたいなんだ」
「きっとお兄ちゃんと一緒なのが嬉しくてはしゃぎすぎたのよ。昔から司郎のこと大好きだものね名前」
(…ああこの人はお兄ちゃんだった)
年の離れた兄司郎。医者として働いて普段は離れて暮らしているが、今日は休みで一緒に
美術館に来ていた。昔も今も否定が出来ないくらいに兄の事が好きだ。何で忘れていたのだろう。ぼんやりしていたせいで忘れてしまったかもしれない。
(言ったらこの歳でボケが始まったのとか笑われるか心配されるかのどっちかだから黙っておこう…)
「俺名前連れて先に帰るよ」
「分かったわ。けど父さんの車使う?」
「いいよ。タクシー拾って帰るから」
帰るぞ名前と言って、手を握られる。
「…うん」
絵画や展示物を横目に見ながら兄に引っ張られて歩く。そうやって進んでいくうちに青い薔薇に囲まれた自分の兄と似た男が眠っている姿の絵画が目に入った。
「あっ…」
―…少し休んだら…私も追いかけますから…ね、名前さん
絵画を見てそんなセリフが頭をよぎる。どこで言われたのかもそのセリフが絵の男を見て浮かんだのかも名前には分からない。ただその絵を見ると、胸が痛くて目の奥が熱くなるくらい悲しくなった。
「お兄ちゃんあの絵…」
もっとじっくりあの絵画を見てみたい。司郎に声をかける。
「また今度連れていくから今は帰るぞ」
有無を言わせない司郎の言葉に従うしかなかった。けど気になって絵画の方に気をとられてしまう。
だから司郎が同じく絵画のある方向を一瞬見て狂気に満ちた笑みを浮かべたことに名前は気づかなかった。
end?