さようなら


繋がれた手の力が段々弱くなっていて名前は泣きそうになった。歩くスピードも牧野に合わせるといつもより遅くて、けれど名前が時々牧野の顔を伺っても何でもないように振る舞う。この事実も彼女が悲しくなる原因になった。
そして、手を繋いだままの牧野と名前がたどり着いたのは一枚の大きな絵画だった。どこか他の絵画とは違うものだと名前は直感的に思った。
絵画の少し下の説明書きには、『一度入るともう戻れない 。ここでの記憶は無くなってしまう。それでもいいの?』と書かれていた。

「牧野さんこれ…出口かもしれませんよ!」

ここから脱出できるかもしれない名前は、牧野に声をかける。
けれど牧野は返答しなかった。かわりに繋がれた手が離れる。

「牧野さん!!」

「すい…ません…少し…疲れた…みたいです」

牧野は途切れ途切れに言った。

「名前さん…先に行ってください」

「嫌です…!」

首を振って名前は全力で否定する。牧野を置いて行きたくなかった。

「一緒に脱出しましょうって約束じゃないですか!一緒じゃないと嫌です…!」

ふらついている牧野に名前は抱き着いて牧野の胸に顔を埋めた。

「…少し休んだら…私も追いかけますから…ね、名前さん…」

懇願するように言う牧野に名前は嫌々と首を振るしかなかった。

「…お願いです名前さん」

頭を撫でられて、名前は顔を上げた。

「絶対後から来ますか…?絶対また向こうで会えますよね…?」

「…努力します。きっと追いかけますから…」

絶対とは牧野は言わなかった。名前はそっと牧野から離れた。

「…絶対って言ってくれないんですね」

「すいません」

「…牧野さん信じてますよ」

「…はい」

これ以上言っても堂々巡りになってしまう。何よりここに自分がいると牧野が困ってしまう。迷惑はかけたくなかった。

「待ってます牧野さん」

牧野に笑って名前は絵に飛び込んだ。

(…うまく笑えたかな)

そう思ったのを最後に名前の視界も思考も真っ白になった。








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