返却
「名前さん、貴方の薔薇取り返しましたよ」
微笑んで名前に赤い薔薇を渡そうとする。しかし、名前は受け取るのをためらっていた。
「牧野さん…」
名前は悲しそうな泣きそうな表情を浮かべている。
(牧野さん、私のために薔薇を宮田さんに渡してしまった)
その意味を、その結末を想像できないほど彼女は馬鹿ではなかった。自分が薔薇を失くしたりしなければ牧野は薔薇を交換することはなかった。彼女は後悔でいっぱいだった。
「そんな顔しないでくださいよ名前さん」
「でも…」
「薔薇を交換したのは私の意志ですから名前さんは責任を感じなくてもいいですよ」
「…」
牧野は笑みを崩さない。名前がどんなに反論して自分に非があると言っても、彼はきっと自分の意見を曲げないだろう。そう彼女に感じさせる笑みだった。
「…分かりました」
名前は牧野から赤い薔薇を受け取った。
「牧野さんありがとうございます」
そしてごめんなさい。謝罪を彼は求めてはいないだろう。口には出さず心の中で牧野に謝る。
「気にしないでください。さて、行きましょう」
「どっちに行くんですか?…宮田さんが教えてくれた方向に行くんですか?」
「はい。さっき探してる時に出口は見つかりませんでしたから…多分信じても大丈夫だと思います」
「牧野さんがそう言うなら行ってみましょう…あの」
「何ですか?」
「… 手を繋いでいいですか?」
子どもっぽいと思われるだろうかと思いながら名前は牧野に小さくねだった。
「…もちろんいいですよ」
差し出された手と一緒に浮かべられた笑顔は、さっきまでの笑顔とは違う優しくて暖かなものだった。