心配
「…あの人の事が心配ですか?」
牧野と別れてしまった方向を時折心配そうに見ていた名前に宮田は声をかける。
「心配です」
名前はすぐにきっぱり答える。
(だって初めて会った時行き倒れてたし…一人で大丈夫なのかな牧野さん)
牧野は名前よりずっと大人だ。先に進むために名前が動かせない石像を牧野が動かしたり、謎解きを考えたりと助けてもらったりもした。けれど、薔薇を絵画の奪われて瀕死になっていたことや一緒に驚いたことの印象が強くて、つい牧野のことが心配になってしまう。
「…牧野さんと名前は付き合っているんですか?」
「違いますよ…!牧野さんと出会ったのはここでですし」
「…じゃあどうしてあの人に懐いているんだ?」
宮田の声が段々低くなっている気がした。
「…手が暖かかったからですかね」
名前は自分の手を見つめる。自分も怖いはずなのに、恐怖を無理矢理抑え込んだような笑みとぎこちなく差し出された牧野の手が、恐怖で凍ってしまっていた彼女の心を溶かしたのだ。彼女の言葉に宮田は黙り込んだ。
「宮田さん?」
さっきから様子がおかしい宮田に名前は不審に思った。
「…どうして」
「…?」
「出会ってからまだ間もないのに、俺と差がないのにどうして…あの人ばかり…!」
「…牧野さんと宮田さんは違いますよ」
「何が違うと言うんだ!」
肩を痛いほど掴まれる。宮田の目の奥はどす黒い光を宿している。
「…性格とかです。牧野さんと違って宮田さんはヘタレじゃなくて冷静で頼れます
よ…!」
自分の肩を掴んでいる宮田の手に名前は手を重ねる。
「他にも違いますよ…だから落ち着きましょう?」
狂気に満ちた目はすぐに反らしたくなるが、反らしたら宮田はさらに危ういことになるだ
ろう。視線を反らさずじっと宮田の目を見る。
「宮田さん…」
もう一度宮田の名前を呼ぶ。
「…すいません変なこと言いましたね」
そう言った宮田の目にさっきまでの色はおかしな光はなかった。
「いいえ…きっと疲れてるんですよ宮田さん。ここおかしな所ですし…早く先に進んで牧野さんに合流して脱出しましょう」
名前が言った後は次の部屋に進むまでずっと二人は無言だった。