小説 | ナノ

 家族になった日

(牧野さんと牧野さん養子夢主)

「こんにちは、初めまして、私は牧野慶といいます」

新しい家族になる人が優しく私に微笑んだ。牧野さん。身寄りがなくなった私を家族として迎えてくれる不思議な人だ。

「あ、あの」

どう答えたらいいのだろう。はきはきと挨拶するほうが印象?がうよくなるのかなとか、いい子アピールで普通に挨拶したほうがいいのかなとか悩んで、答えが出ないまま挨拶がうまく言えなかった。

ーーどうしよう。嫌われてしまうかも。

怖くてうつむいてしまう。そもそも私は人見知りだった。普通に挨拶するのも奇跡だった。
じっとしている時間は少しの間だったのかもしれないけれど、私にとってすごくすごく長い時間に感じた。
 
牧野さんは長いスカートみたいな服を地面にくっつかないようにしてしゃがみ込んだ。私と視線を合わせてくれて牧野さんと同じ目線になった。

「貴方の名前、聞いてもいいですか?」
「……名前です」

今度は言えた。牧野さんは名前さんと私の名前をつぶやいている。

「名前さん……いいえ、家族ですから名前と呼んでもいいですか?」
「……うん。あの、よろしくお願いします。えっと……」

牧野さんをなんて呼べばいいか悩んだ。私も今日から牧野になるのだから牧野さんって呼ぶのは変だろう。
牧野さんは私の悩んでいることに気づいてくれたようで、苦笑いを浮かべていた。

「書類上は私は名前さ……名前の父親になりますが、そこまで年の差もありませんので兄でも、名前の呼びやすいように呼んでください」
「じゃあ……慶おにい、ちゃんで」

おにいちゃんまだ言いなれない言葉でつっかえてしまったが牧野さん……慶お兄ちゃんは照れていた。

「これから私たちは家族です。よろしくお願いしますね」

慶お兄ちゃんは手を差し出した。握手だろうか。恐る恐る手を握ればぎゅっと優しく握ってくれた。
慶お兄ちゃんの手は汗でぬれていて少し震えていた。
私と一緒でお兄ちゃんも緊張していたんだと初めて気づいた。

「よろしくお願いします!」

こうして私と慶お兄ちゃんは家族になった。


***





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