○ゆき | ナノ
「………うそ…」

ドサリと名前の足元にスーパーの袋が落ちる。仕事を終えて、ぐったりと重い体を引きずってさあいざ夕飯を作ろう…と意気込んだ名前の体はぎこちなく動きを止めた。その視線の先には、白いレースのエプロンに身を包んだ幸が鍋の中身をかき回していた。そんな名前の視線に気がついた幸がそちらへと顔を向ければ、呆然としたような名前と目が合う。

「お。おかえり……………って、こわ。なに?はやく入っておいでよ」
「……えっ、なに?ごめん理解が追いつかない………パスタ作る横顔をとりあえずもう少し見つめてていい…?」
「いいから手洗ってきなよ…」

呆れ顔の幸がため息をつく。そのため息で鍋から立ち上っていた湯気がゆらりと揺らめく。その神々しさに思わずほうと声が漏れる。

「…幸、今日の稽古は?」
「公演落ち着いたから今日は早めに切り上げた」
「…そのエプロン、」
「あ、ごめん。かけてあったの可愛いから使っちゃった、」
「……いいの、幸用のやつだから……」

天使がいる…と呟けば幸から呆れたようなため息が返ってくる。
某高級雑貨店で一目惚れしたそれを値段も確認せずにカゴに詰め込んだことも記憶に新しい。自分のため、などと思う間もなかった。幸がこのエプロンを纏っている姿しか思い浮かばなかった。
気がつけばそんなことばかり増えているような気がする。どんな道を歩いていても、どんなものを目にしても。真っ先に思い浮かぶ相手がいるのだということ。

「…何もオレ用にしなくたって。アンタだって着ればいいのに」
「えぇ、わたしはいいよ、そんな可愛いの似合わないし」
「……じゃあさ、色違いのやつ作るから一緒に着ようよ、それならいいでしょ?」

一緒に、という台詞に名前がめっぽう弱いことも把握済みらしい。可愛らしく首を傾げられてしまえば、反論などできるはずもない。

「…きる…一緒にきよ…」
「はい、よくできました、手洗っておいで、」
「はぁい…好き…」
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