○ゆき | ナノ
「…アンタさ、基本いつもブラウスにパンツ、みたいないかにも〜な感じで仕事行くけどたまにはスカートくらい履けば?」

じ、と音が出そうなくらいの幸からの視線には気がついていた。それに気がつかないフリをして玄関を出て行こうとすれば、ようやく彼は重い口を開いた。

「…どうしたの?急に」
「………別に。前々から思ってたこと、言っただけ。」

言ったきり彼はふい、と目を逸らしトーストを齧った。思わずふふ、と笑みがこぼれる。

「…何?にやにやして気持ち悪い、」
「なんだか、制服姿の男の子に見送られて仕事に行くの、すごく悪いことをしてる気分になるなって、」
「…俺の質問に全然答えてないじゃん、いいよもういってらっしゃい、」

言いながら幸が力なくため息をつく。どうしてだかその仕草が大層愛おしく思えてしまった名前は玄関に向けていたつま先をくるりと裏返した。その行動に驚いたらしい幸がびくりと肩を震わせる。

「…なに、どうした、」

眉を顰めた幸の言葉を遮るように、前髪をかき分けて額にキスをすれば、思っていたとおりに幸が動きを止める。してやったり、と笑ってみせれば彼はバツの悪そうな顔をする。

「…いってくるね。帰りにスカートも買ってくる、」
「馬鹿なの?さっさと行かないと遅刻するよ?」

照れ隠しなのか、いつもよりも雑になった暴言にまた笑みがこぼれる。ああそうか、好きな人に言ってもらう「いってらっしゃい」という言葉は、これほどまでに嬉しいものなのか。

「……いってらっしゃい、」
「うん。行ってくる、」

そんな名前の心中をわかっているのかいないのか、幸はもう一度その言葉を口にした。ああ、離れがたいな、と素直に思う。いつもならずん、と心が重くなる出勤も不思議と心が軽くなる、と思った。帰ってくればまた、あの、気怠げな彼の「おかえり」が聞こえるなら、それはとても、

「………やっぱりもっかいちゅーしていい?」
「うっさい早く行け馬鹿、」

それはとても幸せ、と名のつくものなのではないだろうか。
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