○ゆき | ナノ
ピンポン、という音に名前と幸は同時に顔を上げた。あ。という声を上げて立ち上がったのは名前で、そんな彼女を幸は視線だけで見送る……どうやら宅配便らしい。

「何?なんか届いたの?」

小ぶりな箱を手に持ちながら部屋に入ってきた名前にそう問いかければ、彼女はこくりと頷きながら「香水!」と笑ってみせる。

「そろそろなくなりそうだから新しいの頼んでたの忘れてた。」

そう言いながら名前が洗面所へと向かっていくので、ふうんと声をあげた幸もまた腰を上げ、その後へ続いた。歩きながらがさごそと箱を漁り、彼女は小ぶりのピンクの瓶を取り出す。

「………それ、」
「ん?」
「………………それ、のこってるの、ちょうだい。」

そう言ってみせれば名前がぽかんとした顔をするので、いたたまれなくなった幸は「やっぱ、いい」と慌てて顔を背ける。

「ちょ、ちょ!待った!ちがう!嫌なんじゃなくて、」
「……じゃあ何」
「いやなんか、幸がそういう我儘言うの珍しいからびっくりしただけ…でもこれ殆ど残ってないけどいいの?」

手元の新しい香水と、棚に残っていた同じ形状のそれを入れ替えながら彼女がそう首を傾げてみせる。瓶の中で、僅かに残った液体がちゃぷりと揺らめく。

「……その瓶、可愛いと思ってたから欲しいだけ。中身は別に、いいから。」
「………そう?」

ならいいけど。と手渡された香水の重みを手に感じながら幸は小さく息をつく。甘えたり、なにかを欲しがることにはやはりまだ、慣れないようだ。
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