○ゆき | ナノ
「…あ。名字さんだ。」

天鵞絨町の待ち合わせスポットに差し掛かり、人の多さに辟易としていたところだった。隣を歩いていた至がそう声をあげるので「あ?」と声をあげる。

「…万里その聞き返し方完璧にヤンキー。ガラ悪過ぎ。」
「うっせ。そいで?誰だって?」

至の言葉にその視線を追ってみるも、人の多さに彼の言っていた『名字』がどれを示しているのかわからない。まあ至の知り合いならば別に、そこまでして探す義理もないかと万里は捜索を諦めた。

「名字さん。幸の彼女。」
「は???まじかよどれどれ??」

だがそれが、我らが毒舌衣装係の恋の相手というなら話は別だった。先程までとはうってかわり、万里は身を乗り出してその捜索を再会する。

「ほらあの、紺のパンツの子。」
「…噂通り幸とはぜん……っぜんタイプ違ぇのな。あれは予想外だわ。」

彼女の方もまさか、そんな風に自分が眺められているだなんて思いも寄らないのであろう。涼しい顔で携帯を弄っている。確か幸の話では一成と同い年とのことだったが、それよりも大人びて見えた。

「……どう?万里ならあの子が座ってたらナンパしにいける?」
「……いや、いかねっすわ…あんまり周囲に興味なさそうだし、ついてきてくれなそー…」

ナンパをした経験があるわけではないが、客観的にみた見解を告げれば「はは、俺も同感」と至が小さく笑った。

「…あ。幸。」

その言葉に万里は再度彼女に視線を戻した。いつものようにピンクのベレー帽、ピンクのスカートに身を包んだ幸が彼女の前に現れると、先程までの凛とした表情は崩れ、途端に目尻をさげて笑う彼女。破顔一笑とはまさにこのことであった。

「…」
「……どう?あれならナンパできそう?」
「………今なら超絶チョロい女に見えっけど、」
「はは、あれが恋の力ってやつだから、」

至のその言葉に「ちょ、誰目線すかw」と笑いを返す。そうして2人の姿から目を逸らした。なんというか、話しかけるのは憚られたのだ。常日頃子供らしいところのない衣装係をおちょくってみたいような気持ちもあったが、それ以上に神聖なもののように感じられたのだ。かといって「幸せになれよ、」などと言ってみせれば「は?急にどうしたのネオヤンキー」と悪態をついてみせるのが瑠璃川幸という男なのだが。
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