○ゆき | ナノ
「ぶ、文化祭…」

その単語に名前は思わずたじろいだ。その様子を幸は怪訝そうな顔で見つめている。

「…何でそんなに引いてるの?大学にも文化祭くらいあるでしょ。」
「…あるけど…なんていうか、高校の文化祭ってめちゃくちゃ神聖なもののような気がするもん…立ち入っていいのやら…」
「はあ?何そのトンデモ理論。アンタもうでっかい花束持って連絡先聞きにくるっていう特大イベント澄ませてるんだから、文化祭くらい堂々と来なよ、」

幸の言葉に思わず「ちょっと!」と叫び声をあげてみても、ふは、と不敵に笑われてしまうだけだ。駄目だ、ファーストコンタクトの件を持ち出されてしまうと勝ち目がない。

「……じゃあ幸の姿を遠目から確認するだけにするよ…」
「はあ??何でそうなる、一緒にまわりたいから誘ってるに決まってるでしょ、」

思いがけないその発言に今度は目を見開く以外にない。文化祭に行くこと自体躊躇われるのに、一緒に回る??幸と??文化祭を??

「無理無理、そんな神聖な場に足を踏み入れられない…」
「だーかーら!人の話聞いてる??」

堂々巡りになりかけた会話に、幸が苛立つのがわかった。あ。これ本格的に苛ついてるやつだ、と名前が小言を覚悟したのも束の間、幸は次の瞬間に「あーもう!」と声をあげる。

「……俺だってたまには自慢の彼女を見せびらかしたいの、そのくらいわかれよ、」

予想外の言葉に思わず動きが止まった。まじまじと幸の方を見返せば、彼は茶化すでもなく怒るでもなく、凛とした瞳でこちらを射抜くように見つめ返すばかりだ……勝てるわけがないだろう、そんな目をされたら。


「…ほんとに行ってもいいの?」
「さっきからいいって言ってる、」
「ですよね。」

どうしよう、と言葉を選びあぐねていれば、幸がするりと名前の髪の毛を持ち上げるのでまた言葉に詰まる。目を合わせないまま彼はそのまま何を思ったか、名前の髪をくるりと指に巻き付けてみせる。

「……この間の監督との遭遇然り、アンタが色々気にしてるのはわかったけどさ。もっと堂々としてなよ。俺はアンタのそういうところが好きなんだからさ。」

幸はいつでも、「好き」だということに躊躇いがない。きっと迷いがないからなのだろう。いつだって自分の好きなものを信じている、自分の感情に絶対的な自信をもっている。そうして今、そんな彼に自分は選ばれているのだ。そう思うと不思議と背筋が伸びる。とても誇らしい気持ちになる。

「……当日は、頑張って可愛い格好でいくから。」

ぐい、と幸の手首を握ってそう告げれば、幸はその丸い目を大きく見開いてからくしゃっと笑う。ああ、好きだな、と思う。

「そうこなくっちゃ。楽しみにしてる、」

言いながらちゅ、と音を立てて幸の唇が頬に触れる。なんだかんだ、手厳しいようで甘やかされているのだ。
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