○ゆき | ナノ
「瑠璃川くんってさ、好きな人とかいないの?」

その言葉に、幸は不機嫌そうな顔を隠さずに顔を上げる。下世話で噂話の好きな、同級生の女子のその言葉はもう幾度となく幸に対して投げかけられているものだった。

いつも通り「いないけど、」と答えようとして、けれど幸は「あー、」と言ったきり口ごもる。頭の中に、とある女の顔が浮かんだからだ。

「え、え、いつも『いないけど、』の一点張りじゃん…どうしたの?」

そんな幸の様子に、驚いたかのように彼女は問いかける。そうなのだ。一体どうしてしまったというのだろう。突如幸の目の前に現れ、巨大な花束を差し出した挙句、デートだデートだと宣うあの女はあまりに鮮烈過ぎた。害のなさそうな、平凡な女だと高を括っていたのがいけなかったのかもしれない。花束を片手に連絡先の交換を申し込んでくる時点で、おかしいと思わなければいけなかったのかもしれない。

「……突然仏頂面で巨大な花束持ってデート申し込んできた変な女がいるんだよね、」
「??」

幸の呟きに彼女はよくわからない、という顔をした。それが普通の反応だよな…と幸もまたため息をつく。思い出すのは先日の(彼女曰く)デートだった。待ち合わせ場所にいつもの姿で現れた幸を見ても、特に驚かなかった彼女。幸の不安をやすやすと飛び越えてきた彼女。その上「またデートしたい」などと、待ち合わせの時点から言ってみせる彼女。
実際に会って話してみれば、思っていたよりもよく笑う女だった。普段は周囲に殆ど興味のない顔をしておきながら、そんな彼女が自分にはあれほど固執することが不思議でならなかった。それは同時に、幸に高揚感ももたらしていた。ひとりで生きていけそうな女が、自分だけには何故だか拘るのだという不思議な感覚。

「…よくわからないけど、大丈夫?ストーカーとか?」

同級生の、こちらを伺うような視線に「うーん、」とまた幸は唸ってみせる。

「………わかんない。早まったかな、」
「……………なんか瑠璃川くん、そうは言いつつも楽しそうだよ?」
「は?」

思いがけない言葉にそちらに向き直れば、彼女が何故だか恨みがましい視線でこちらを見つめているところだった。

「…そんなこと、」

ないけど。と言おうとすれば呼応するようにぶるりと携帯が震える。浮かび上がった名字名前の名前に何故だか幸はそこで口を噤んでしまう。返信が遅い癖に、何故こうも的確に狙いすましたかのようなタイミングで連絡がくるのだろう。

「………瑠璃川くん、なんかにやけてるけど、」
「うるさい、そんなことない、」
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