○ゆき | ナノ
「仕事中さ、眠くなると幸のこと、思い出すんだよね、」
「は?」

日曜の昼下がりだった。たっぷりと寝坊をした名前と幸は、遅い朝食を食べた後に何をするでもなくぼんやりとテレビを見つめていた。それに飽きた名前が手近にあった雑誌をぱらぱらとめくっていれば、幸の方も同じであったらしい。立ち上がり、名前の背中にごちんと体重を預けたかとおもえば、スケッチブックを広げ、次の公演の衣装のデッサンを始めた。
くっついてくるだなんて珍しいな…と頬を緩ませていれば、「何見てんの、」とこちらを見ずに幸が言うので、「なんでもないよ〜」と戯けてみせる。そうして、冒頭の台詞に至るのである。

「仕事中に何考えてるの?もっと真面目に働けば?」
「えー、なんか目がさめるんだもん、」
「…ちょっと。ほんと何考えてんの?」
「あはは、えっちなこと想像した?」

言いながら首を傾げてみせれば、幸がわかりやすく不機嫌な顔をする。あ、これ以上やると拗ねるやつだ、と察知した名前は緩む口元を隠しきれずに得意げな顔を浮かべる。幸の方もどことなく居心地の悪そうな顔でこちらを見つめている。

「…なんていうか、背筋が伸びるんだよね。ああわたし、瑠璃川幸の彼女なんだよな、頑張らなくちゃなって。」
「………え、っと、」

どうやら予想だにしていなかった言葉であったらしい。用意していたどの言葉でも対応しきれなくなった幸がわかりやすく言葉を失う。かあっと赤くなっていった頬に思わずこちらも目を見開いた。そんな反応されると、なんだか困る。

「………そりゃどーーも、」
「………あは、なんか、照れさせてスミマセン…」

名前の言葉にすかさず、べつに照れてない、とぴしゃりと幸が言い放つ。さすがの幸もその発言は無理があると思ったのか唸りながら名前の背中に顔を埋めた。猫みたいなその所作に愛おしさが募る。幸の方を見やれば、小動物のような丸い瞳がほんのすこし臆病さを携えてこちらを見ていた。見んな、という声はいつもよりもか細い。


「………オレも似たような気持ち。アンタの彼氏でいられて光栄だよ。」
「…………………そ、そりゃドーーーーモ、デス…」
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