「ゆ、き、チャン〜〜!!買い物っスか!?よかったら一緒に………あっ!」
ぱたぱたと駆けてくる足音と共に大きな声が響く。幸が呆れたように溜息をついて「…出たな馬鹿犬、」と小さく呟く。つられて名前が後ろを振り返れば、どこか見覚えのある少年が唖然とした顔でこちらを見つめていた。名前の顔をまじまじと見た彼は喉の奥で小さく悲鳴をあげる。
「……う、ウワサの彼女さん……ッスか…」
噂?と名前が幸に問いかけようとするよりもはやく、ぐいと肩が引き寄せられる。そのまま名前を自分の胸に押し付けた幸は「そーそー。デート中なんだから邪魔しないでよね、」と言ってのけた。そうすればみるみるうちに、馬鹿犬と呼ばれた少年が元気をなくしていくのがみえる。
流石に言い過ぎなんじゃ…と口を開こうとした名前はそこでようやくはたと気付く。
「…………異邦人のゼロちゃん?」
そうだ、どこかでみたことがあると思えば…!と名前が手を叩けば、「え、あ、そうッスけど…」と目の前の少年が目を丸くする。ずい、と彼に近づいてみせれば幸が「げ、」と呟くのが聞こえた。
「…幸とお付き合いしている名字名前といいます。あの、異邦人すごく良かったです。ゼロちゃんが可愛かった…握手してもらえますか?」
そう言いながら自然な動作ですっと手を差し出せば、気まずそうに幸の方をちらりと見やった太一がおずおずとその手を握る。だが、その数秒後には「ワーン、恋敵に優しくされちゃったッス〜!」と言いながら走り去っていってしまった。
恋敵?と名前が首を傾げていれば、幸がはあっと溜息をつく。
「…恋敵はどっちだか………アンタ、女装してる男なら誰でもいいわけ?」
その言葉にまじまじと幸を見つめ返せば、彼はバツが悪そうに顔を背けてしまった。その姿に今度はこちらが溜息を漏らしてしまう。先程の幸の呆れたそれとは違う。感嘆の溜息だ。
「そんなわけないのに…………わからないかな、わたし、初めて会ってから今日までずっと、こんなにも幸に夢中なのに。」
するすると言葉が溢れてしまい、あ。と思ったときには幸が目を見開いていた。そういえば面と向かってこんなことを言ったのは初めてだったかもしれないな、と思い至れば頬に熱が集まる。
「…恥ずかしい奴、」
「……あはは、全くですね。」