○ゆき | ナノ
「ゆっきーの彼女ってさ、名字名前ちゃんって名前?」

一成の言葉に幸は途端に顔を上げた。思いがけない人物の口から思いがけない名前が飛び出したからである。

「……そうだけど、何?」

敢えて不機嫌な声を出してみても、この男には伝わらなかったらしい。「やっぱりー!そうだと思ったんだよねー!」と軽薄な声があがれば、なんだなんだと夏組の面々が集まってくる。

「テンテンはこの間会ったんでしょ?この子じゃない?」

言いながら一成が携帯の画面を天馬に見せるので、「はぁ?なにそれ、」と言いながら幸は立ち上がる。思わず声が裏返った。

「……ああ、そう、コイツ。」
「わー、綺麗なお姉さんだね、」

天馬の相槌に、椋が感嘆の声を上げる。何故一成が彼女の写真を所持しているのか、わからない幸をよそに一成は画面の上で指を滑らせる。

「この間ゆっきーが彼女と2人で歩いてるの見た時に、どっかで見たことあるな〜って思ったんだよね〜、そしたらさ、友達のインステによく写ってる子だ!って気づいてさ〜」

それでその子に名前聞いちゃった〜と悪びれもなく言ってのける一成。画面を覗き込めば、見慣れた彼女の顔が友人の隣で微笑んでいる写真が表示されていた。そういえば昨日は友人と食事をすると言っていたような気がして幸はようやく合点がいく。一成はあいも変わらず「へー!名前ちゃんってかわいーじゃん!」と歓声をあげている。名前呼びかよ…と思いながらも、悪気がないから尚タチが悪いのだ、と幸は息をついた。インステから彼女の存在が公になるとは思っていなかったが、まあ遅かれ早かれこうなるだろうとは思っていたのだ。何せ、自分と彼女の関係性のそもそもの元凶はこの三好一成という男によるものなのだから。

「…もともとアイツ、その友達の付き添いでこの劇場見にきたくらいだから、」

幸の言葉に一成が「え!もしかしてカズナリミヨシ、2人のキューピッドになってた感じ?」と声をあげる。
事実そうなのではあるが、こうなると思ったから言いたくなかったのである。

「はいはいまあそんなとこ、じゃ。俺はもう寝るから。」
「ちょっとゆっきー!詳しく聞かせてよ〜」

しつこく纏わりついてくる一成をいなしながら幸は自室を目指す。後日、名前から深刻そうな声で『なんか今日友達と待ち合わせしたらミヨシくん?って人も来て色々聞かれた…』という電話が入って初めて、幸はこの行動を後悔することになるのだが。
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