○ありすいん | ナノ

『もしもーし、元気してる?』
「…まあ、それなりに。」
『あ、今鬱陶しいって思ったでしょ?失礼な使用人はいやだねえアベル?』

電話口でわたしは思わず困った顔をしてしまう。この人との距離の取り方を、未だに測り損ねているのだ。子供のような口ぶりで、真意の読めない大人。

「……何か御用でしょうか?」

御国からの電話は久しぶりだった。どこで入手したのか、彼は時折用もないのに電話を寄越した。その殆どが、中身のない電話ばかりでいつも困り果ててしまうのだ。今回もその類だろうかと思っていれば、電話口で含み笑いが聞こえる。

『んー。そろそろ御園が何かしらアクションを起こすんじゃないかってね。大事な弟を君みたいな節操のない女にとられるのは、ちょっといただけないからさあ、』
「…節操がないなんて、そんな『へえ?あんなに三月に対してギラついた目をしておいてそんなことが言えるの?寂しいとすぐ体を明け渡す淫乱の癖に、』

予想外の言葉に眩暈を覚えた。その言葉には多少語弊があるものの、概ね事実なのだ。わたしは三月を利用したのだ。洞堂のことが好きな三月を。それを知っていながらわたしは、自分の寂しさを埋めるために彼女を求めた。言葉巧みに近づき、抱きしめてキスをした。

『御園は昔っから何故か君のことを好きだったからね。あいつもお年頃だし、不安要素は排除しておかなきゃと思ってさ、』
「………なら、ご自分で、言いに来ればいいのに…」

カタカタと情けなく震える膝をいなしてそういって見せれば、一瞬だけ御国は口を噤んだ。だがそれも一瞬のことで、すぐに彼はいつもの調子を取り戻す。

『…君も意外と言うようになったね。その勇気を免じて、今回は見逃してあげるよ。でも、疑わしいことがあればすぐ罰しちゃうからね、それじゃ。』

一方的に切れた電話を握りしめ、わたしは立ち尽くす。手にはべったりと汗が張り付いていた。そうして、消耗した酸素を取り戻すように小さく息を吸いこんだ。
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