※公式ユニット曲「ワンダーランド・ア・ゴーゴー!!」を聴いてからのほうがわかりやすいかもしれません。 追いかけている。何を?前を走り続ける少女の後ろ姿を。 軽々と、けれどしっかりとした足取りで前を走る彼女。段々と近づく背中に確信を持つ。ああ、自分は彼女のことを知っている。 追いつく背中、指先が彼女の白い手首を絡めとる。 振り返る彼女、そう、彼女の名前は、 「……あ。至さん、目が覚めました?」 煌々と光る蛍光灯の灯りに目を細めて2秒。ゆっくりと視線を横にずらせばそこには名前が本を膝の上に乗せて穏やかな笑みを浮かべていた。どうやら談話室のソファーに寝転んだまま眠ってしまっていたらしい。小さく苦笑する。やれやれ、随分自分も無防備になってしまったものだ。 「…おはよ、監督さん。俺どのくらい寝てたかな?」 「さあ。わたしもさっききたところなのでわかりませんけど。わたしが来た時にはもう、」 「ぐっすりと?」 「そうそう、」 軽口を叩き合いながらゆっくりと体を起こす。至さん、寝癖すごいですよ。と名前がまた顔を綻ばせる。その顔をぼうっと見つめながら、寝ぼけた頭で名字名前という女について考える。 ついこの間まで、自分の人生に何ら関わりのなかったこの女。偶然が重ならなければまず出会わない、境遇も歳も性別も、何もかもが自分と違う彼女。それが今となってはどうだ。夢にまで出てきてしまうだなんて。自ら彼女を、夢の登場人物に選ぶまでになってしまうだなんて。 「監督さん、」 「?なんですか?」 人畜無害そうな丸い目がこちらをじっと見つめ返す。ああそうだ、自分は今誰か一人を選ぶとしたら間違いなく、彼女がいい。他の誰かではなく、名字名前がいい。漠然とだが確かにそう、思う。 「来てくれてありがとうね、」 「?」 言ってみてから、脈絡のない言葉にほんの少しだけ気恥ずかしくなる。言わんとしていることはきっと伝わっていないだろう。それでいい、それがいい。だって自分にもよくわからないのだから。けれど、大切なものを自由自在に選び取ることのできる人生の中で、きっと自分は今、間違いなく彼女のことを選びたいのだということ、いつからか彼女がそういう存在になっているのだということだけははっきりとわかる。 「…こちらこそ、出会ってくれてありがとうございます、至さん。」 ああ、こういうところなのだ。だからこの子は心臓に悪い。けれど絶対に手放せない。 |