「ねえねえ名前ちゃん、それ、楽しい?」 能天気なその声に顔をあげれば、にっこりと笑った狼谷吊戯がこちらを見つめていて、なんとういうか、苛つく。 「…楽しいわけないじゃん。勉強が楽しいなんて人間なんていると思う?」 くるりとシャーペンをまわしながらそう呟けば「じゃーこれは没収ー!」と吊戯がノートを取り上げようとする。慌てて抑えつければ、ビリ、とノートの端が少しだけ切れるのが見えた。 なんてことをするんだ、と彼の方を睨めば、吊戯はようやく名前が自分の方を向いたことが嬉しかったらしい、にっこりと満面の笑みを貼り付けて笑った。 「…吊戯、こんなことしてて大丈夫なの?テストは来週って知ってる?」 「はっは!いざとなったら名前ちゃんに土下座して教えてもらうから大丈夫!」 覗き込んだ彼のノートはあいも変わらず下手くそな文字が羅列しており、その能天気な様に呆れ返った。 そんな吊戯を無視して勉強を再開すれば、それが彼には不服であったらしい。今度は名前のプリントで紙飛行機を折りはじめる。 「ちょっと吊戯!邪魔するならわたし帰るよ!?」 そう凄んでみせれば、吊戯は大袈裟に肩を竦めてみせる。一応反省しました、という素振りはしているものの、彼が全く反省していないということは長い付き合いからわかっている。 「…別にテストができなかったからって死ぬわけじゃないんだからさー、もうちょっと気楽に生きようよ、ね?」 どことなく人間離れした笑みで笑う吊戯にどきりとする。そしてそれに気づかれないようにシャーペンをくるりと回した。言っていることは無茶苦茶なのに、吊戯の瞳に見つめられると、どことなく本気めいてくるのだから不思議だ。 「…わたしがどうしようもなくなったら、」 そしたら吊戯はどうにかしてくれるの? そう聞こうとして、口ごもった名前を、吊戯はじっと見つめた。何もかも見透かされているような気分になる。名前ちゃんは馬鹿真面目だからなあ、という言葉と共に、ぽんぽんと頭を撫でられる感覚がした。 「…うーん、そうだなあ。オレ、駄目な人間だからさ、ぐずぐずになるやり方なら、名前ちゃんに教えてあげることできるよ、」 名付けて吊戯先生の堕落講座! どう?と得意げな顔をしてみせた彼の言葉に、あ。それいいかも、と思ってしまった自分がいた。その事実に苦笑する。降参、と名前が両手をあげれば、吊戯は嬉しそうに笑ったので、そうだ。いちごオレでも買ってこよう、と思ってしまう。ぐずぐずに駄目になるのも二人なら、悪くないかもしれない。 |