そういえば彼氏と別れたんだよね、と。ひさかたぶりに食事を共にした後輩に告げてみれば、彼の反応が存外薄かったためにわたしはほんの少しだけ驚いた。付き合っていた最中はあれほど、『別れた?』だの、『まあ長く続くとも思えないけど、』だの、散々に横やりを入れてきた癖に。 ふうん、と一言。言葉を落とした彼は興味がなさそうに食事を再開したので、この話題はこれまでかと思い至りわたしも手元のスープを啜る。しばし沈黙。食器と金属がふれあう音ばかりが響いた。 「…いつ別れたの?」 「え?」 唐突な彼の言葉に勢いよく顔を上げれば、彼は真意の読めない顔でこちらを見ていた。「いつ?」とその唇がもう一度形作る。 「……3ヶ月前、くらい?」 「なんで疑問系なわけ。やっぱりあんたって馬鹿、」 「う、るさいなあ。年下の癖にやっぱり赤羽くんって生意気、」 いつもの調子が戻ってきた、と感じたわたしはほっと息を吐いた。報告が遅くなったことをもっと非難されると思ったのだ。付き合っていた最中、喧嘩する度に業に電話をしていたことも記憶に新しい。それなのにすっかりと報告をしそびれていたのだ。よくよく考えてみれば失礼な話だったかもしれない……よし、今夜の支払いは任せてもらおう、と思いながらわたしは意気揚々とメインのステーキを引き寄せながら軽口を叩く。 「あはは、そういうわけだから今度よかったら友達でも紹介してよ。イイ男、よろしく。」 「……ふーん。考えといてあげる、」 ファミレスの安っぽいステーキは、ナイフで切り分けるのに労力を要した。手元に夢中になっていたわたしは、彼の目が全く笑っていなかったことに、気付かない。 「信じらんないんだけど。ねえ渚くんどう思う??彼氏と別れた??そんなのとっくにリサーチ済みだししむしろ報告が遅いくらいだし??わざわざ夕飯に誘ってきといてそれで??友達紹介して???え、なんなのほんとに。俺でいいじゃん、俺と付き合えば良くない?俺がどんだけこの時を待ってたと思ってるの??」 「…業それ本人に言えば良いと思う。」 |