短編2 | ナノ




「ピアスをあけさせてほしい」といえば、吊戯はあの、何かを諦めきったような優しい笑みでどうぞ、と耳を差し出した。欲しい、といえばこの男、目玉でもくり抜いてみせるのではないかとぞっとする。

ピアッサーを持ち出してみたものの、震えているのはどちらかといえば自分の方で、名前はそんな自分に呆れ返る、それと同時に、あまりにも簡単に体を明け渡すこの男を恨めしく思う。

吊戯の体に穴をあけたいと願うのは、所有欲か、性癖か、それとも衝動か、どれのせいわからない。もしかして、愛情と呼べるもののせいなのかもしれない、と思いながらも、震える自分の右手に安堵した。自分は彼を傷つけたいわけではないらしい。

なかなか動かない名前を不思議に思ってか、目を閉じてこちらに身を委ねていた吊戯が心配そうに薄眼をあけた。そうして、にへら、と笑う。
オレ、名前ちゃんとお揃い、嬉しいなあ。

自分も大概だがこの男も大概だ、と思う。自分の体をなんだと思っているのだろう。本当はもっと大事にして欲しいのに、と思う。思いながらもやはり彼の体に穴をあけたいとも思う。

吊戯の笑みに無駄な力が抜け、改めてピアッサーを握り直した。そうして一思いにえい、と押せば、バチーン!という激しい音とともに、彼の耳に金属片が埋め込まれる。その刹那、吊戯は一瞬だけぎゅ、と目を瞑った。あ、バージン、と名前は思う。ピアスの穴が体を貫通するのは、なんというか相手の処女を奪うのに似ている、と思った、などと言えば、下品だろうか。

「…いたい?」

黙りこくったままの吊戯にそう声をかければ、彼はまた優しく笑い、全然いたくない、と呟いた。そうして、早くして、とでも言いたげに反対の耳も差し出してきたので、同じようにバチーンとしてやる。


ああ、こんなにも簡単だ。
吊戯の耳に光るファーストピアスを見ながら、名前はその髪の毛を撫でた。そうして彼の体が腐りゆく瞬間を思った。彼も自分も、死ねばいつか腐る。こんな小さな穴なんて、見つからなくなる。

それでも相手の体に刻み付けたいと、刻まれたいと願うのは、愚かなことだろうか。ああそうだ、自分は穴をあけることで、彼に覚えていて欲しいと思った、ただそれだけだった。

たかがそれだけの作業なのに、どっと疲れ果てた名前はその場に座り込む。いそいそと吊戯が膝枕をせがんできたので貸してやると、彼はきゅう、と子犬のように名前の腰に抱きついてきた。用意しておいた氷嚢を渡せば、どことなくうっとりした表情の彼と目が合う。

「…ねえ名前ちゃん、オレにもあとで、ピアス穴増やさせてほしいな、」

ほうら、わたし達は似た者同士だ。似たような寂しさを、抱えたもの同士だ。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -