短編2 | ナノ




※ちょっと裏注意です。



「ちょ…っと、リヒト…!」

くぐもった声が耳に届き、ロウレスはドアを開けようとした手を止めた。「うるせえ」というリヒトの声に続き、衣摺れの音。ははん、とロウレスは事の状況を把握する。

(リヒトがやけに気に入ってた日本人の…名前は確か…)

思い返してみても、彼女の名前が一向に出てこないロウレスはまあいいかと顔を緩ませ、ハリネズミの体へと姿を変えた。そのままするりと、ほんの少しだけあいていたドアの隙間から体を滑り込ませる。


(あーあ、なんだかんだリヒトもオトコノコなんスねえ…)

テーブルの陰からベッドの方を覗いてみれば、そこには見覚えのある女を組み敷いたリヒトが息を切らしているところだった。女の方もへにゃりとした顔をしており、離れていても熱が伝わってくるようだった。

名前…というリヒトの掠れた声が聞こえて、そうだ名字名前だ、とロウレスは彼女の名前を思い出す。あんな平々凡々な女にどうして…とロウレスは溜息をついた。所詮は彼も人の子だということだろうか。

ピアノを叩くその長い指が、彼女の服のボタンをゆっくりと外していく。極め付けにしゅるりとリボンを外せば、露わになった肌が白く浮かび上がってほんの少しだけどきりとした。室内は早くも篭った匂いが充満し始めており、ロウレスは鼻をひくつかせる。

「い……や、ちょ、どこ触って…あ、」

感じやすいのか、リヒトが手練れなのか、彼女の矯声は大きくなるばかりだった。その手がある一点にたどり着けば、途端に彼女の体にぐっと力が入るのがわかる。不自然に仰け反った足がベッドの端から覗けば、彼女の声も切れ切れになった。あ、あ、という声に呼応してベッドが軋む。リヒトは淡々と黙って行為を押し進めるばかりだ。

(…意外と、前戯が長いタイプなんスね…)

なんだか生々しくなってきた、とロウレスが退室を試みたその時、一際大きい声があがる。キャン、と犬に似たその声を最後に彼女の足からくったりと力が抜けた。あらま、とロウレスが思ったのも束の間、「おい、こんなんでへばってんじゃねえぞ、」と低い声が聞こえ、彼女の嬌声は再開する。

「あ、リヒト、や、めて…」

制止の声も虚しく、態勢を変えられ再開した愛撫に彼女は為すすべもないらしい。先程よりも切羽詰まった声が室内に響く。今度は彼女の足ではなく、その表情がよく見えた。

(…あーあ。泣かせちゃって。)

彼女の瞳にじわりと涙が浮かぶのが見えた。徹底して責め立てられ、彼女の方も限界だったらしい。焦点の合わない目がすとんと揺れ、一瞬ロウレスは目が合ったような気がした。

いけない、と思った瞬間、ロウレスは踵を返していた。心臓の音がやけに大きく聞こえる。部屋の外へ出た彼は人型に戻ると、大きく肩で息をした。

『…リヒト…』

瞼に浮かぶのは、とろりとした目の彼女と、捕食のようなその行為。

「あーもうくそ!胸糞悪ィ……」

一瞬かち合った目を忘れようとしてみても、藍色に浮かぶその深い目の色は忘れられそうにない。それでもそれを振り払おうと、ロウレスは何度も頭を強く掻き毟り続けた。


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