短編2 | ナノ




好きなものだけを紙の上に書き並べていく。


ピンク、冬のお布団、長風呂、イチゴ、近所のベーカリーのバタール…ええと、それから、

「…相変わらずおかしなことをしてるね、」

名前の手元の紙を覗き込んだ臨也が、マグを片手に呆れた声をだす。その様を見て、名前はまたさらりと書き足す。臨也さんの作ってくれるミルクティー、


はあ、


淀みないその行為に臨也が今度は溜息を吐いた。

「好きなものが分かっているということは、安心する」というのが名前の持論だ。彼女は時折こうして、自分の好きなものを紙に書き出している。安心するのだそうだ。自分の好きなものが可視化されていることが。その感性は、臨也には理解できないらしい。

だが、そうして彼女は、その紙に一度も、「折原臨也」と書けた試しがない。彼への思いを、一括りに「好き」といってしまっていいものかどうか、迷うのだ。「好き」とくくってしまえば、この思いが大層陳腐なものに成り下がる気がしてしまう。

「せっかく紙とペンがあるんだから、たまには俺への恋文くらい書いてくれてもいいのに、」

そう茶化しながら、彼はとん、と音を立ててピンクのマグを置いた。そこには件のミルクティーが入っており、名前は唇を綻ばせる。

「ラブレター、ですか、書いたことがないですね。具体的にどういうのが嬉しいのでしょう、」

この男は、今更自分に「好きだ、」と言われたところで嬉しいのだろうかと考えてしまう。そもそもが他人に「好きだ」と言われるような生き方をしていない男だ。
名前の問いに答えが見つからなかったらしく、臨也が肩を竦めるのが見えた。

現に自分は、臨也に好きと言われたいわけではないのかもしれない、と名前はぼんやり考える。そんな言葉でくくられてしまっては、生きている張り合いがない。
自分は、折原臨也の何になりたいのだろう。

ちらりと臨也の方を覗けば、彼がぐっと伸びをするところだった。長時間の座り仕事で疲れているらしい。ぼうっとそれを見つめていれば、その所作が大層美しく見えて、見惚れる。黒い服と、持ち上がった服の隙間から覗いた白い腹に見惚れる。そうして試しに手元の紙に「臨也さん」と書いてみる。

「そうだ、そろそろお昼でも食べに行こうか、」

だが、彼がくるりと振り返り、そんなことを言ってのけたので、慌てて名前はその文の後に「の腹チラ、」と書き加えたのだった。



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