短編2 | ナノ




「いいんですか?名字家のご令嬢にあんな噛み跡つけて、」

御国の言葉に吊戯がきょとん、とした表情を返してみれば、そこにはただ事実を淡々と述べるだけの冷静な瞳が鎮座していたので、途端に息を吐く。そして笑ってみせる。

「オレ、名前ちゃんとは何もしてないけど?国ちゃんなにか勘違いしてるんじゃない?」
「俺は名字家と言っただけで、別に名前さんの名前は出してませんよ、」

おどけてみせてやったのに案外好戦的だ、と苦笑を交えながら御国を見返せば、その眼光がきっと細められたので、更に高圧的に見返してやる。

「はっは、国ちゃんはお子ちゃまだなあ!わかってて言ってやったに決まってるでしょ?」

御国が名前に好意を抱いているのか、はたまた自分への嫌がらせのためにそんなことを言ってみせているのか、その真意は定かではなかった。けれど、名前の首筋に噛み跡があること、それが吊戯によるものであるということもまた、事実だった。

「流石吊戯さんですね。柵の中の犬にまで手を出すなんて本当…節操がない、」
「はっは!生憎育ちが悪くてね!」

そう返した吊戯の顔を忌々しげに見た御国は、もう話すことはないとでも言いたげな動作でその場を立ち去ろうとする。その姿にしっかりと、トドメを刺すことも忘れない。

「…そうそう国ちゃん!名前ちゃんは犬っていうよりまだ子犬って感じだよ!鼻の奥でクン、って啼くんだ、あれは可愛いよ〜」

背中に投げかけたその言葉への返答はなく、吊戯はただ黙ってその大きくなり始めた背中を見送るだけだった。





「…夜這い?」

その言葉にびくりと名前はその背中を震わせた。だが、その声の主が吊戯であることに安堵した様子を見せる。

「…あなたが来いって言ったんですよ、」
「あれ、そうだっけ?ごめんごめん、」

言いながら彼女の毛先を捲り上げる。髪に隠れたその首筋には、ぼんやりと吊戯がつけた跡が残っていた。それはキスマークから噛み跡まで様々で、よくぞここまで根強く残っているものだ、と吊戯は苦笑する。

「…国ちゃんに怒られちゃったよ。オレたちじゃどうやら、異種交配みたいだからね、」

そう突き放してみても、彼女は目の色を変えない。ああ、厄介な、けれど従順で可愛い子犬だ、と思う。彼女はおそらく、目の前の自分を追いかける以外のことはなにも考えていない。

「…それじゃあ、キメラ、みたいのが生まれちゃうんですかね。」

思いがけない言葉に思わず彼女の目を見やった。名前ちゃん、結構怖いこと言うね、と茶化してみせれば、そうでしょうかとこてんと首が傾く。

「…恐ろしいね。全く、怖いもの知らずなお嬢様だよ…」

言いながら彼女をそっと持ち上げ、乱暴に部屋のドアを足蹴にする。思いがけない衝撃に彼女がまたクン、と子犬のようにくぐもった声をあげるのが聞こえた。ベッドにどさりと落とされた彼女は、一瞬だけ怯えた目をした。だがそのすぐ後には、意を決したようにこちらへと首筋を露わにしてみせたので、吊戯はその傷跡の上から新たに跡を上書きするのだった。







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