価値のあるものじゃなくていい。 それでも自分のために生きたい。 「…そんなのって空虚だよ、とても。」 「………そうでしょうか。それならば自分が価値のあるものだと、人はどのようにして認識すれば良いのでしょう?」 「………ああ、名前はそういう子だったね、」 おいで。と臨也が手を広げるので、大人しく膝の上に座った。彼の机の上には、見たこともないような宝石がいくつもちりばめられていて、眉を寄せる。マトモな仕事をしている人間の持ち物ではない。 「…ああ、これ?次の取引相手に渡すやつだよ、俺のじゃない。」 言いながら彼はつまらなそうに石の一つを持ち上げる。よくわからないがおそらく高価なのだろう。石は新宿のネオンを鈍く、重厚に反射させていた。 「…わたしは、わたしに価値がないことを重々、承知しています。」 その宝石に自分を重ねようとしても、到底出来る筈などないのであった。だからこそ、そんな宝石をつまらなそうに見つめる臨也に救われる。かといって、自分は彼にとってどれほどの価値のある人間なのかはわからなかったけれど。 「…だから空虚だよ、そんなの。誰からも可愛がってもらえない挙句、自分で自分を可愛がることも放置するなんて、なんなの?名前はマゾなの?」 「可愛がってますよ。だからこそ、価値もないのに生きてることを選んでいるんです、」 「…君の場合生きてることのほうが苦しいのに?そもそも君の言う価値って何?」 それは…と口ごもる。それはおそらく、誰かに認めてもらうことだ。自分ひとりでは自分の価値など、はかることができない。けれどそれを臨也に伝えてしまうのはあまりに怖かった。自分が臨也にとって価値のないものだと、正面切って言われてしまうことが怖かった。 黙り込んだ名前に、臨也はわざとらしく溜息をついてみせる。 「…俺が殺してあげようか?」 「そういうことではありません。」 「わかってるよ。君が大層マゾだってことくらい、」 「…わたしは、」 わたしは決して、あなたに傷つけられるためにそばにいるわけではありません、と告げようとして。けれどそれは叶わなかった。だってこの男だけは鮮烈に、自分に生きている感触をくれるのだから。 言葉の先を続けられなくなった名前を、臨也は満足げに見つめた。そうして再度、手の中の宝石をつまらなそうに転がしてみせる。この男の、善悪の基準だとか価値観、というものがまた読めないのだ。誰もが羨むような宝石を、さも無価値なものであるかのように扱ってみたりする。かと思えば、こんな自分をずっとそばに置いておいたりもするのだ。 「でも、さ。殺されるなら俺にしてよ。君が他の人間に好きにされるのは、なんていうか、苛つく。」 唐突に乱暴になった言葉にびくりと肩を揺らしてしまう。それすら予想の範疇なのであろう。臨也はまた満足げに笑ってみせる。手の中の宝石がつまらなそうにがちゃりと音をたてる。その音はこう言っているように聞こえる。「ねえ、俺を退屈させないでよ、」その言葉でまた、自分は彼にしがみついてしまうのだ。たぶん一生。 |