短編2 | ナノ




「疑似恋愛って、ラクだし楽しいよ、」

言いながらさらりと男の頬を撫でた。傷も染みもない肌に惚れ惚れする。

「へえ、どうやら俺は碌でもない女の子を引き入れちゃったみたいだ、」

突然膝の上に乗っかって、そんなことを言ってのける女をものともしないこの男、胡散臭さしかない。碌でもないのは、お互い様だろう。

「……なーんにも知らないでさ、あなたのこと、でも骨抜きで、めろめろ、って感じ、この時が一番楽しいの。ずーっと、こんな気持ちでいれたらいいのにな、」
「毎晩殴ってあげようか?一度くらい記憶喪失になれるかもしれないよ、」

ほら仕事の邪魔だからどいたどいた、と膝の上からの退散を余儀なくされ、名前は目の前の男を睨んだ。その表情とは裏腹に、心は蕩けきっている。脳内の化学物質が、暴れている。

「…そんなに物欲しそうなら、キスでもしてあげようか?ほら、おいで、」

投げ出しておきながら、再度ぽんぽんと自らの膝を提示してみせる男に、名前は首を横に振った。「やだ、好きになっちゃうもん、」「なにそれ、」

面白いね君。しばらく退屈しなさそうだ、と言いながら彼がパタンとノートパソコンの画面を閉じた。
どうやら彼の仕事にはからずも勝利してしまったらしい、と名前はどぎまぎする。「しばらく」という言葉に笑みが漏れる。やっぱりわたしたち、似た者同士だ。

「いまだけ」がいい。深みにはまるのは好きじゃない、「いまだけ」が楽しい。この時間がずっと続けばいいのに。
やだってば、と言いながらも、ソファーに組み敷かれて胸が高鳴った。息を吸い込めば清潔な香りがして、それは数秒後に名前の鼻先で香った。のしかかる体重はひどく現実的なものなのに、頭の中はふわふわ、非現実的だ。

もう二度と味わえない感情ならば…まして、こんな、未来など予想できないような男によって与えられる感情ならば、できる限り享受したい。美味しいところが、もっと欲しい。キスやセックスは付属物でいい。わたしは、この気持ちをずっとずっと味わっていたい。

頬にキスがおりてくる。いい匂いがするなあ、と思いながら名前は、あ。と声を上げて彼の動きを止めた。

「…なに、どうしたの?」

急な抵抗にほんの少し眉を下げた表情、ああ、格好いいなあ。

「いやあの、そういえばお兄さんの名前はなんていうんでしたっけ!」

まあどうでもいいかそんなもの。





ドーパミント!/東.京.事.変



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